LLP有限責任事業組合トランスポート

鉄道生録について

1.なぜ鉄道生録か

現代は、特集映像番組が頻繁に放送されていることからみても”映像文化真っ盛り”と言えるかと思います。鉄道趣味の世界を見ても、写真・書籍・模型などの商品が多いのは昔からですが、目につくのがビデオ・DVDなど、「鉄道記録映像」を対象とした
商品です。それらは、確かに視覚に訴えるものであり、一目瞭然に車両を記録できるわけですから、あらゆる世代の鉄道ファンに支持されるのが頷ける気がいたします。

25年〜30年ぐらい前、家庭用ビデオの登場する前に、”生録ブ―ム”が起きていたと聞いています。私が、ソニーのデンスケを初めて手にする前後の話ですから、はたしてそうだったかなという気はいたします。そのブームの背景には、手軽にステレオ録音
が楽しめるそのデンスケの登場が大きかったと思います。昭和48年に、ソニー社が「TC−2850」というクロームテープが使用できるデンスケを登場させたのは、やがてデンスケからDATへとつながるほど大きなできごとだったと考えられます。生録ブームが起きた後、ビデオが登場して多くの方が「映像と音を同時に記録できる」ことに魅力を感じてかそちらの方へ移っていったと思われます。私自身も、その点には魅力を感じて1年間ほど実際に家庭用ビデオカメラで、身近な鉄道車両を記録してみました。

しかしながら、「映像と音を同時に記録して再生できる」メリットは確かに感じましたが、解像度の低い初期の家庭用ビデオカメラであったこともあるかもしれませんが、スチール写真に比べてひと桁低いと思われる画質、こんな感じだったかなという程度の音質にがっかりしたものでした。2003年の現在では、画質・音質ともに改善され、画質でスチール写真に迫り、音質でDAT録音により迫ってきているとは思います。けれども、画質でスチール写真にかなわず、音質でDAT・ステレオ録音にかなわないというのは今も変わっていません。”2兎を追う者、1兎を得ず”という故事が頭に浮かびます。

現地に行った時に接する鉄道車両の”生の音”の迫力を記録して再生できるのは、16ビットのデジタル録音ができるDAT(あるいはMD)しかないと感じます。ビデオで録れる音は、あくまでも、”映像記録”を補完するだけの音でしかないように感じます。ビデオ再生時に、目をつぶってそこから流れる音を聴いて、現場の生の迫力を再現していると言えるでしょうか?!

生の迫力を記録するなら、今も”生録”であると私は断言したいと思っております。それゆえ、鉄道車両の”生の迫力”をDATで生録する。映像面を補完する記録として、並行してスチール写真撮影を行なう(線路端、録音機に近い位置で”かぶりつき”アングルで撮影)というスタイルを継続してやってきております。

生録風景:高松駅 1981・3・18 機材:デンスケ
2.SLブーム時のSLレコードが目標でした。

1971(昭和46)年、私はソニーのモノラルラジカセを手にしました。内蔵マイク付きでしたが、当然のことながら、当時最後の活躍をしていた現役蒸気機関車(私にとっての対象は、伯備線・山陰本線D51、山陰本線C57、倉吉線C11のみでした)を録音しても、ただ音が出るだけでした。当時私はまだ中学生であり、当然のことながら機材や取材旅行にお金をかけることができませんでした。

一方で、高性能の録音機材を持って、全国各地を取材旅行して回れるレコード会社のスタッフが羨ましくてしかたありませんでした。当時は国民的なSLブームであり、発売されるSLレコードの数も相当なものでした。私が手にする小遣いは、大方伯備線や山陰本線のD51などが収録されているSLレコードを購入するのに消えていきました。きっちりと記録して商品化してくるレコード会社に対しては、羨ましさとともに憧れの気持ちも抱いておりました。何とか彼等のように録音することができたらと思っておりました。それらのレコードは今もきっちりと残っておりますが、たまにそれらを聴いてみて、”自分もせめてあと5年早く生まれていれば、少しはこれに近い録音ができたのに!”などとも思ってしまうのです。

現役時代の蒸気機関車は、1976年3月2日をもって姿を消しました。時の流れは容赦無く襲い掛かり、私がデンスケを手にできるようになるまで現役蒸機の寿命は待ってはくれなかったのです。これで味わった悔しさは、やがてバネとなり、プラスの気持ちに変
えていくことにより、DF50やDD51のステレオ録音へとつながっていったわけですが、ここでSLブームの頃のSLレコードについてその長所(メリット)と短所(デメリット)について述べてみます。

これらのSLレコードが憧れ・目標だった。
3.SLブーム時のSLレコードについて

1971年前後のSLブーム時、レコード会社から競ってSLレコードが発売されました。17cmLP、30cmLP、2枚組以上のセット物など、収録方法も地域別のものやD51・C62など形式別のものなどおそらく何百種類もの数だったと思います。空前のSLブームの時であり、ビデオもDVDもない時代ですからSLの”音”の出る商品として”受けた”のは事実だと思います。

しかしながら、SLブームが去るとともにそれらの商品も市場から姿を消し、現役SL全廃の3年5ヶ月後に山口線にC571が復活してもSLブーム時のような「SLレコードブーム」とはなりませんでした。SLファンが、復活SLに対して違和感を感じていたこと、SL以外の旧型電車・旧型電機・ブルトレなどに趣味の対象を移して行ったこと、記録手段としてビデオが登場したことなどがその理由として考えられると思います。さて、私が聴いた限りにおいてSLレコードの長所・短所について述べてみたいと思います。

長所
  1. デジタル・ポータブル録音機器のない時代に、電源を民家より借りたりしながらも高音質な録音を行ない、しっかり記録してあること。
  2. 地域別・形式別に幅広く取材して、内容も「客車添乗音」「運転室添乗音」「炭水車添乗音」「出発地上音」「通過地上音」「自動車並走音」など数々の収録方法を行ない、うまくミックスして商品化されていること。
  3. SLブームの中、各社が競って発売したことにより、商品の数がとても多いこと。
  4. 迫力ある写真がジャケット・解説写真に使用されており、見ごたえがあったこと。
短所
  1. 添乗音の収録にあたり、ベタ録音(ノーカット録音)の内容が極めて少ないこと。多くの添乗音は、駅間完全収録ではなく、抜粋であること。
  2. オリジナル録音にはない汽笛などが、後でミキシングされており手が加えられてしまっているものがあること。
  3. 添付の解説で、データ(録音場所・列車番号・形式・ナンバーなど)の不足しているものが目立つこと。
  4. 発売後の販売期間が比較的短く、後々購入しようと思っても廃盤になってしまっているものが多かったこと。(大量生産・大量廃棄という図式があったこと)
このように、豪華なジャケット・迫力ある録音であった半面、マニアからこだわりの目で見た場合、かなり物足りない部分が多くありました。もっとも、当時は国民的なSLブームのさなかであり、商品として多数販売していくためには、マニアに受けることよりも一般受けする構成とすることが求められていたという背景があるかもしれません。

現在は、かつてのSLブームの時のように鉄道車両が国民的人気・関心を集めるようなことはありません。従って、かつてのSLレコードのようにひとつの「鉄道サウンド商品」を大量生産しても大量に売れていくことはありえません。              
しかしながら、鉄道サウンドを扱った商品に対するニーズがないわけではありません。時代の変化が激しく、鉄道車両の移り変わりのめまぐるしい現代では、消え行く車両・あまり注目をされてこなかった車両などのサウンドを聴きたいという熱心なファンの方々のニーズがあります。私どもは、その部分に目をつぶらず、かつてのSLレコードをお手本としながら、その欠点を補う形の商品を作っていきたいという思いです。

これらのSLレコードは優れたところも多かったが、物足りない部分も多かった