LLP有限責任事業組合トランスポート
録音方法について

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前 書 き
現代は「情報化社会」の真っ只中、本格的なネット社会を迎えようとしています。パソコンに向かい、ネットに接続するだけで、自分の趣味・価値観に応じた情報を自由に引き出せるようになりました。私が鉄道生録音(モノラルですが)を始めた1971年〜1972年頃は、雑誌での”情報化”を迎えたと思える頃でした。SLブームの真っ只中、一般向けのステレオ録音テープレコーダーが登場して、「別冊週間読売」誌には”SL録音の方法”なる記事が掲載されていました(当時、私はこの本を細かく見ておらず、掲載されていたことをSL全廃後になって知りました)。

私が中学2年生だった時、大好きだった伯備線D51があと半年で姿を消すという時に発売されたのが、現在の「鉄道ダイヤ情報」誌の前身「SLダイヤ情報」誌創刊号(1972年10月発売)であり、とても関心を持ち繰り返し読んでいました。この中に掲載されていた記事の一つが「SLの音を録ろう!(松沢正二氏稿)」でした。

当時の私は機材はモノラルのラジカセしか持っておらず、SL写真と違って本格的にSL録音をやっている人など周りには皆無の状態で、”師”と呼べる人も全くいませんでした。”ここに行けばいい音が録れるだろうな、でも機材は貧弱で夜間録音など親の許可ももらえない!”と気ばかり焦っている状況でした。

今、改めてこの記事を読んでみると、わずか4ページの記事ながらも、ほんの”さわり”の内容しか書いてないと思えても、”ポイントのみ記載します。後は自分で創意工夫してSLの録音をやってみなさい。”と言われているかのような”よき師”であったと思います。

それから32年の歳月が経過していますが、今度は私が自分なりにやってみたこと、経験を積んでみたことを、もっと踏み込んで写真を交えて解説してみたいと思います。
SLダイヤ情報誌創刊号 同誌掲載記事:SLの音を録ろう
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添乗音と地上音
鉄道録音は大別して「添乗音」と「地上音」があります。これは皆様がご周知のことかと思います。運転されている列車の客室やデッキ、乗務員室、運転室等に乗車して収録するのが「添乗音」で、駅構内や駅ホーム、駅間の線路端で出発音や通過音を収録するのが「地上音」です。

SLブームの頃は、当時発売されていたSLレコードを見てもそれぞれがほぼバランスよく収録されており、添乗音・地上音のいずれかに偏っている傾向は、一部のマニアックなアイテムを除きあまり見られません。それだけ蒸気機関車は、地上で出発音や通過音を収録してもさまになっていたのです。現在は電車の時代となり、地上で電車列車の出発音を収録しても加速がよいためかあまりにもあっけなく、電車の地上音を収録することは私もまれでした。

しかしながら、蒸気機関車は次々復活してきており、これらの地上音を収録しても迫力がありますし、少なくなった客車列車の中でもブルートレインの機関車交換風景や貨物列車の重量感溢れる出発・通過音も面白く、かなり迫力があると思います。鉄道の生録をする人はもともと少ない上に、添乗音を収録している人ばかり見かけますが、私は個人的には地上音が奥が深いと思っております。

私どもは添乗音・地上音ともに「どうしたらよい音が録れるか?」を考えながら様々な録り方を行ってきました。まずは、それを系統的に分類して、それぞれの説明をしていきたいと思います。
山陰本線キハ58添乗音収録
山口線篠目駅にてC57出発音収録
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鉄道録音の分類
私どもDFアローが行ってきた録音を系統的に分類すると下記のようになる。

1:添乗音
1−1)列車車内添乗音
1−1)−1:客室内録音(座席上・窓閉)
1−1)−2:客室内録音(床上または鉄板上・窓閉)
1−1)−3:客室内録音(窓枠上・窓閉)
1−1)−4:客室内録音(荷物棚上・窓閉)
1−1)−5:客室内録音(座席上・窓開)
1−1)−6:開放寝台内録音(窓閉)
1−1)−7:個室寝台内録音(窓閉)
1−1)−8:先頭客車乗務員室内録音(窓開)
1−1)−9:中間連結車助士席横録音(窓開)
1−1)−10:車端デッキ上録音(窓開)
1−1)−11:車端部洗面所内録音(小窓開)
1−1)−12:先頭客車貫通扉真後ろ録音(窓閉)
1−2)機関車添乗音
1−2)−1:運転室内録音(窓開放状態)
1−2)−2:運転室内録音(窓閉状態)
1−2)−3:蒸気機関車炭水車添乗録音

2:地上音
2−1)駅出発音
2−2)駅間通過音
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添乗音総論
「添乗音収録の基本」についての私の考え方

私は成人するまでの殆どの間、鉄道と言えば電車・電気機関車ではなく、ディーゼル車両や蒸気機関車を見て育った。従って優等列車や一部の普通列車を除けば、多くの普通列車や貨物列車はディーゼル機関車か蒸気機関車牽引であった。私が少年時代の昭和43年〜50年頃(1968年〜1975年頃)はもうすぐ蒸気機関車がなくなるという事で空前の国民的SLブームが起こり、私の住む山陰でも蒸気機関車は大人気となり、反面”追い払う側”のディーゼル機関車は完全に”目の敵”となっていた。

しかし、いずれも機関車が先頭に立ち動力を持たない客車や貨車をぐいぐいと引っ張って行く姿は迫力に満ちており、これらの機関車の写真ばかりでなく”迫力ある音”も残したいという事で、先頭客車の一番前の席、あるいは先頭デッキ上で(開放空間上で)クリアーな添乗音を収録するべく録音活動を始めていた。生憎、ステレオ録音機材が揃った時には既に現役蒸気機関車は姿を消してしまっており(1976年3月2日をもって、いったん103年間の日本の蒸気機関車の歴史にピリオドが打たれた)、”それならば「かつての憎まれ役」のディーゼル機関車でやろう”という事で本線用ディーゼル機関車DF50やDD51を主体に「先頭客車先頭座席・窓少々開」または「先頭客車デッキ上」でのステレオ録音を行なってきた。
日本ビクター社によるD51牽引客車列車添乗音収録風景(LPレコード「D51の響き:1973年発売」の解説書からコピー引用)※先頭客車先頭座席・窓少々開録音はこの時点で頻繁に行なわれていた。私もこれが基本であると考える。
私がステレオテープレコーダー(SONYのデンスケ)で録音を始めた頃は、まだ窓を開けられる旧型客車や12系客車が多く、窓を少しだけ開ける「窓少々開録音」が可能であり、必然的にクリアーな音が収録できた。前述の先頭客車の先頭座席等で収録するというのは、主目的の”先頭機関車の迫力ある走行音”を的確に捉える事を可能にしていた。この考え方・行動は私が考えるまでもなく、SLブームの頃に既に私の先輩世代にあたるレコード会社の録音スタッフやアマチュア鉄道録音愛好家によって行なわれていた。あれから30年余経過して日本の鉄道は完全に「電車の時代」となって、「音鉄」というとその世界では完全に”電車中心”になっているかのように思える。

しかしながら、私は時代は変わっても「添乗音収録の基本」は全く変わらないと私は考える。すなわち、機関車牽引列車であれば「録音場所:先頭機関車のすぐ後ろの客車の先頭座席、録音方法:窓少々開(音の通り道を確保する目的だけの窓開けであるから10cm程度でよい)」が基本である。これにより、機関車のブラスト音(蒸気機関車)・モーター音(電気機関車)・エンジン音(ディーゼル機関車)が”音の障壁”なしに直に録音できるため、とても明瞭な収録ができる。これを電車列車主体の現代日本の鉄道の添乗音収録に置き換えて考えるならば、「録音場所:モーター直上席またはエンジン直上席(気動車列車)、録音方法:窓少々開」となる。国鉄形車両であれば、115系・113系・103系・キハ58系・キハ47系などの急行形・近郊形・通勤形車両でこれが可能である。実際にやってみてやはりモーター音・エンジン音が直に入ってきて迫力があるし、車内のため車内放送もよく聞こえる。
SL重連やまぐち号・先頭客車・マイテ49-2先頭座席における添乗音収録(写真右側・右側最前部の窓にマイクを固定・隙間はボール紙で埋めた)。
しかしながら、国鉄形の特急形車両や最近の新車は全て窓の開かない空調完備の車両である。台車真上のモーター/エンジン直上席にマイクをセットしたとしても「窓閉状態録音」となる。こうなると、車内の床の分厚い金属板を介してモーター音やエンジン音が聞こえてくる状況となる。

これは、必然的に聞こえてくるモーター音やエンジン音が明瞭でなくなり、「篭った音」が収録される事を意味している。これを基準として「篭った音+車内放送+乗客まばらな静かな車内+空調音なし」録音がよいとする見方もあるようであるが、「窓閉録音」の最大の欠点は、前述のとおり収録されるモーター音やエンジン音から迫力・臨場感を奪ってしまう事である。「窓少々開」録音と「窓閉録音」の迫力の違いは数値で表す事は難しいが、私は過去の経験から「窓少々開」状態での録音の迫力を100とすれば、「窓閉状態」では60だと感じている。
先頭客車の一番前で窓少々開録音を行なうと機関車の迫力ある走行音を明瞭に収録できる(許可を得て乗務員室内にて収録)。
では「窓の開かない車両」ではモーター音やエンジン音が明瞭に収録できないかというとそうではない。”窓少々開状態に準じた環境”が存在する。車端部ホロ付近や洗面所の小窓付近(窓開状態にて)である。車端部ホロ付近は、モーター音やエンジン音に対する「音の障壁」は車内床とは相対的に薄い「ゴム製のホロ」のみである。車内で窓閉状態で録音するのとは比べ物にならないほど”音の透過率”がよく、モーター/エンジン直上席・窓少々開録音に迫る「迫力ある収録」が可能である。洗面所の小窓付近(窓開状態にて)についても、車端部であるためにモーター音やエンジン音はやや遠くなるが、「窓少々開状態」であるために収録される音が明瞭となる。

以前、私が車端部で収録する事を「他の乗客に迷惑をかけているのではないか?」と評した人がいるが、根拠がないと言える。すなわち、40年〜50年前の機材であればダンボール箱ほどもある大型録音機でかつ電源コードも必要としたが、現在は同程度の性能で超小型化された機材である。マイク保持にしても、つり革片手に反対側の手で行なっている状況である。すなわち、つり革を持って文庫本を読んでいる状況と変わらない。車両間を車内中央通路を通って移動する人が通れるだけのスペースも確保している状況であるから他の乗客とのトラブルも皆無である。

電車・気動車の添乗音収録において、キハ58系のように窓の開く車両ではこのように「エンジン直上席・窓少々開録音」が可能である。パノラママイクを使用すると迫力ある臨場感溢れる収録ができる。
結局、「窓の開かない車両」での収録であっても収録方法によっては迫力ある録音が可能である。私はそれらの車両での収録においては、「モーター/エンジン直上席・窓少々開での録音」に準じた録音環境を探し、創意・工夫しながら収録していく事が大切と考えている。

あと、窓の開くキハ58系などの車両であっても、最近は希少価値が出て来ているためかイベント列車に使用される事も多く、指定席・車内環境(乗客の会話が多い)等の関係で「エンジン直上席・窓少々開での録音」ができない事が多い。その場合はそれに準じた環境での収録(@中間連結助士席(立ち入り可能・窓少々開)A車端部デッキ上(車端窓開))を行なう事で、「エンジン直上席ではあるが窓閉状態の車内録音」よりも迫力ある収録が可能である。

また、私は全く行なった事はないが、マイクを車内の台車上に固定してマイクを点検蓋に向ける方法がある。客観的に見て、位置的にモーターやエンジンに近いわけであるからそれなりに迫力がある録音になると思うが、いかんせん分厚い金属の床が「迫力あるモーター音・エンジン音」の”音の障壁”となっている。「大きな篭った音」が収録されると考えられる。

私に関して言えば、添乗音収録の原点が機関車牽引列車であるから、こういう発想が全くなかった。「窓少々開録音」により迫力ある収録ができてきたからである。
窓の開く通勤電車の収録では、乗車率の関係などで「窓少々開」録音は難しいが、電動車の車端部・車端扉開状態で収録すればそれに準じた環境となり、迫力ある収録ができる。つり革を持ち反対側の手でマイクを握れば他の乗客に迷惑などかかる事もない。
そのほか、私の「窓少々開録音」について、”無理な窓開け録音をしている”と評した人がいるが、これは現状把握ができていない筋違いな話と言える。なぜなら、”窓開けの高さ”はせいぜい10〜15cm程度であり、窓から顔を出す事も不可能な状況である。目的は「モーターやエンジン音、蒸気機関車の迫力あるブラスト音や汽笛などを直に拾うための”音の通り道”を確保する事」であるから、繰返しになるが必要最小限の「窓少々開」でよいのである。窓を大きく開く必要もない。車内満席の中、私だけ顔も出せるくらいに窓を大きく開け、隙間も埋めず録音を行なっていれば”無理な窓開け録音をしている”と言えるかも知れないが、そのような事をした事は一度もないわけであるから筋違いも甚だしいと言えるであろう。

前述の事をまとめると、以下のようになる。

1:添乗音収録の基本は、電車・気動車の列車であれば「モーター/エンジン直上席上・窓少々開」、機関車牽引客車列車であれば「機関車に一番近い先頭客車先頭座席上・窓少々開」である。

2:窓の開かない車両などで1:の状態での収録が困難な時は、それに準じた録音環境で収録を行なうと迫力ある録音が可能である。

3:聴く人の好みの問題もあるので、「窓閉状態での車内添乗音収録」を否定するものではない。

以降は、具体的な各添乗音収録方法について述べていきたいと思う。

イベント列車などの収録では、指定席・車内環境などの理由で「エンジン直上席上・窓少々開録音」が難しいが、「中間連結車両の運転台横・助士席窓少々開録音」であれば、それに準じた環境となり、比較的迫力ある収録ができる。もちろん他の乗客に迷惑などかかる事もない。
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