手話通訳等による遺言

 民法の一部を改正する法律(平成11年12月8日法律第149号。以下「民法改正法」という。)中、遺言の方式の改正に関する部分が本年1月8日に施行され(民法改正法附則1条但書)、手話通訳等による遺言が可能となりました。


1 遺言の方式に関する改正の趣旨及び概要
 民法改正法によって、民法第969条の2の規定が新設された。これにより、口がきけない者(言語機能障害を有する者)又は耳が聞こえない者(聴覚渉外を有する者)が遺言公正証書の作成を嘱託した場合には、公証人は、「口述」、「口授」又は「読み聞かせ」の手続に代えて「通訳人の通訳による申述」又は「自書」により、遺言公正証書を作成することができるとされた。

 また、民法改正法によって、民法第972条の規定が改正された。これにより、口がきけない者が秘密証書遺言ノ作成を嘱託した場合には、公証人は、「自書」のほか、「通訳人の通訳」により証書の作成を行なうことができることとされた。

 これらの改正は、手話の発達した現在の状況にかんがみ、聴覚又は言語機能に障害を有する者についても、公証人の関与による遺言の適法性の担保などのメリットを有する公正証書遺言を利用することができるようにすべきであるとの社会的要請にこたえ、もって聴覚又は言語機能に障害を有する者の権利擁護に資することを目的とするものである。

 なお、これらの改正とあわせて、民法第969条第3号が改正され、読み聞かせに代えて閲覧の方法によることもできることとされた。これは、耳が聞こえない者だけでなく、健常者についても行える一般的な手続とされたものである。


2 手話通訳等による遺言証書の作成
 手話通訳等による遺言証書の作成については、通常の遺言証書の作成手続によるほか、次のとおりとする。
(1)公正証書遺言
ア 遺言者が口がきけない者である場合
 証人2人以上の面前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述させ、又は自書させて口授に代える(民法第969条の2第1項)。
 手話通訳等の通訳人は、遺言者において確保する必要があるが(公証人法第39条)、必要に応じて、各都道府県の手話派遣協会等を通じて一定の水準の能力を有する手話通訳者を確保することが可能。
イ 遺言者が耳が聞こえないものである場合
 遺言者の口述の内容を筆記し、その筆記内容を通訳人の通訳により嘱託人に伝え、又は遺言者に閲覧させて、筆記の明確性を確保する(民法第969条の2第2項、第969条第3号)。
 通訳人の確保については、アと同様である。
ウ 手続の明確化及び証拠化
 ア又はイの方式にしたがって公正証書を作成したときは、その旨をその証書に付記しなければならない(民法第969条の2第3号)。
 本人の事理を弁識する能力に疑義がある時は、遺言の有効性が訴訟や遺産分割審判で争われた場合の証拠保全のために、診断書等の提出を求めて証書の原本とともに保存し、又は本人の状況等の要領を録取した書面を証書の原本とともに保存するものとする。これは、民法改正法に基づく手続に限らず、一般の遺言公正証書の作成においても行うものとする。
エ 証人が耳が聞こえないものである場合
 証人が耳が聞こえないものである場合には、通訳人の通訳又は閲覧によって筆記内容を証人に伝えることができる(民法第969条の2第2項、第969条第3号)。
(2)秘密証書遺言
ア 口が聞けない者が手話通訳等の通訳を用いて秘密証書によって遺言をする場合には、証人2人以上の面前で、その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述させて、民法第970条第1項第3号の申述に代える(民法第972条第1項)。遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、その旨を遺言書の封紙に記載しなければならない(同条第3項)。
 通訳人の確保については、(1)アと同様である。
イ 手続の明確化及び証拠化
 本人の事理を弁識する能力に疑義がある時の取扱いについては、(1)ウと同様である。