飲み屋のつけは、1年で時効

 日常会話で、親から借金をした息子が親から督促されて、「それは時効だ」なんて、使うくらい時効という言葉は良く使われます。しかし、本当の意味での時効は、結構種類もたくさんありますし、その全てを網羅することは大変難しいものです。
その1つに、「飲み屋のつけ」は、1年で時効になるということは、ご存知でしょうか。民法第174条第4号にその旨の規定があります。
民法第174条 左ニ掲ケタル債権ハ一年間行ハサルニ因リテ消滅スル
  一〜三号 (省略)
  四 旅店、料理店、貸席、及ヒ娯楽場ノ宿泊料、飲食料、席料、木戸銭、消費物代価並ニ立替金
  五 (省略)
 だからといって、飲み屋の付けを支払わなくて良いということはないのですが、飲み屋さんから見れば、1年間請求をせず、一部の弁済もうけず、放っておいたら時効でその権利(請求権という債権)を失ってしまいます。ですから、債権を管理・保全する意味でいろいろ方策を採る必要性がある場合もあります。顔なじみのお客さんなら、なかなか言い出しにくいところかもしれません。お客さんから見れば、ついうっかりということもあるでしょうから、1年以上経過してからでも、任意に支払をすることは可能です。しかし、初めから支払うつもりがないのにつけで飲もうとするのは、犯罪(詐欺罪)になりますから、ご注意を。


 時効には、基本的分類として、消滅時効取得時効があります。この2種類それぞれに長期のものと短期のものがあります。

 消滅時効とは、その名のとおり権利者がもっていた権利が一定期間権利を行使しないことによって消滅するものをいいます。飲み屋のつけの例は、短期消滅時効の具体例ですし、友人間の金銭の貸し借りは、10年の消滅時効の対象になります。

 取得時効とは、真実の権利者でないものを一定の期間自分の所有物と思って占有していると、その物の所有権を取得することをいいます。(ここでは、所有権といいましたが、その他の権利を時効取得することもあります。)

 たとえば、森原さんから藤田さんが土地250平方メートルを購入したとします。購入する時に土地の登記簿謄本を見たら、森原さんの名前が載っていたので安心してこれを購入したのです。ところが、この土地上に建物を建てて10年以上経った時に、別の森原さんが現れて、この土地は森原さんのものであり、登記簿は間違っていたといいます。事実登記簿にもたまには間違いがあるものです。この場合、森原さんが真実の権利者であったとしても、藤田さんが取得時効を主張すれば、最終的にこの土地は藤田さんのものになるのです。