農業会ってなんだ?

 ○○農業会を抵当権者とする抵当権があります。抹消登記をして頂けないでしょうか?とその土地の所有者の方から依頼がありました。

 農業会って?農協協同組合の前身?その名のとおり農協の前身なのです。私の事務所では、以前にも何件か農業会の抵当権の抹消登記をしたことがありましたが、わたしは、この依頼があったときには、まだ、農業会という法人のことはよく知りませんでした。所長に聞いてみますと、これを読んでみてと手渡されたのが、法人登記入門(出版社:テイハン)という書籍。早速開いてみました。農業会は、農業団体で以下のとおりの法人である事がわかりました。


農業団体の意義
 農業団体は、農業団体法(昭和18年法律第46号)に基づく法人で、これには次の4種類の法人がありました。
(1)市町村農業会
 市町村農業会は、「農業に関する国策に即応し農業の整備発達を図り且つ会員の農業及び経済の発達に必要なる事業を行うことを目的とする」法人でした(農業団体法第10条)。
(2)都道府県農業会
 都道府県農業会も、市町村農業会と同様の目的を有する法人でした(農業団体法第10条)。
 なお、市町村農業会及び都道府県農業会を地方農業会と称しました(農業団体法第10条)。
(3)全国農業経済会
 全国農業経済会は、「農業に関する国策に即応し会員の事業に必要なる経済事業を行うことを目的とする」法人でした(農業団体法第49条)が、昭和20年法律第58号をもって、全国農業会となりました。
(4)中央農業会
 中央農業会は、「農業に関する国策に即応し農業の整備発達を図ることを目的とする」法人でした(農業団体法第58条)が、農業団体法第58条は、昭和20年法律第58号によって削除されました。  
変遷の経過
 農業団体は、農業団体法に基づく法人でしたが、農業団体法は、昭和22年12月15日農業協同組合法の制定に伴う農業団体の整備等に関する法律第1条第1項によって廃止されたことに伴い、市町村農業会、都道府県農業会及び全国農業会も昭和23年8月15日をもって法定解散しました(農業協同組合法の制定に伴う農業団体の整理等に関する法律第1条第3項)。
 以上の措置に伴い、農業協同組合及び農業協同組合連合会は、市町村農業会、都道府県農業会又は全国農業会に対し、財産の分割請求又は資産の譲渡あるいは債務の引受に関する協議を求めることができました(農業協同組合法の制定に伴う農業団体の整理等に関する法律第5条、第6条、第7条)。


そこで、休眠抵当権抹消の実務(出版社:大学教育出版)という書籍で、農業会の抵当権抹消の登記手続に関して勉強してみました。すると、農業会の抵当権抹消については、農業会の清算人が現存するかしないかによって、その手続が変わってくるという事がわかりました。
 清算人がいる場合には、その清算人の方から委任状に印を頂きながら、抵当権の抹消登記をする事になるのですが、清算人がいない(死亡している)場合には、清算人の選任を裁判所に申立し、その清算人から、委任状に印を頂きながらの手続になるということです。
 そこで、○○農業会の清算人を調査してみますと、皆さん亡くなっている事が判明しました。
 農業会の清算人申立は、私は初めてでしたから、以前の申立書(以前に当事務所で扱った事案の申立書)や、休眠担保権抹消の実務という書籍に載っている申立書を参考にしながら作成し、裁判所に提出しました。この案件は、早急に売買があるということでしたので、その旨も裁判所の書記官に伝えました。すると、決定が出たのが申立から1週間という、非常に短期間で手続が終わり、なんとか、決済(不動産の取引)の場に間に合わせる事ができました。


〜あとがき〜

 農業会は、現在の農業協同組合の前身ですが、必ずしも農業会の財産(債権、抵当権等)が農業協同組合に移行されたわけで無いようです。したがって、農業会名義の抵当権がある場合、上記の手続を踏むのが通常となるのではないでしょうか。

 農業会の抵当権は、結構残っているもので、田や畑を宅地にして分譲しようとするとよく出てきます。やはり、農業関係の法人ですから、田や畑についている事が多いのです。各地に農業会はありましたから、今後もことあるごとに、古い抵当権が出てくる事でしょう。
 こういった風に、古い抵当権は、しばしば出てきますし、残っていると結構厄介なもので、すぐすぐに抹消する事ができない場合が多々あるようです。それで、抹消登記をしないまま、所有権移転をする場合もあるようですが(司法書士を介さない登記申請の場合)、後々の事を考えれば、多少費用がかかっても、所有権を移転する時に併せて抹消する方がいいといえるでしょう。