農会ってなんだ?

 ことの始まりは、いつもお世話になっている不動産業者の社長さんから、ある土地を購入されたい方がいらっしゃるということで、その土地の不動産全部事項証明書(法務局に申請すると出てくる、当該不動産の情報を記載した書面)を見させて頂きました。

 すると、○○村農会を名義人とする大正15年に設定登記のされた抵当権がついていました。さあ、その農会とは何なのか、今までに農業会というのは、その手続をしたことがあったので、その関係なのかな?と直感的に思ったのですが、すぐに判然としません。
 
 「それって、農業会の間違いじゃない?」という意見もあったのですが、一応不動産全部事項証明書に記載されていますから、きっと存在した法人であろうということで、いろいろ書籍を調査してみることとしました。

 すると、あるではないですか(正確には、あったというべきですが・・・)。農業会の概要を法人登記入門という書籍で、確認した後、その法律名等が判明したので、早速鳥取県立図書館から古い官報(官報は、国の新聞で、法律が制定、改廃があったりするとこれに掲載されることになっています。)を取り寄せ法律を紐解くことからはじめることにしました。

 すると、その書籍にあったとおり法律があるではないですか。その書籍及び官報を参考にしながら農会の仕組みを探ってみると次のことが分かりました。


農会の意義

 農会は、農会法(大正11年法律第40号)に基づいて設立された法人で、「農業の改良発達を図るをもって目的と」していました(農会法第1条)。農会には、町村農会、市農会、郡農会、都道府県農会及び帝国農会がありました(農会法第8条)。
 なお、農会は、法人登記を要しない法人でした。


変遷の経過
 
 農会は、農会法による法人でしたが、農会法が農業団体法第100条1項1号の規定によって、昭和18年9月15日廃止されたことに伴いそれぞれ次のとおり解散しました。
(1)帝国農会は、中央農業会成立の時解散し、帝国農会の権利義務は中央農業会がこれを承継しました(農業団体法第78条)。
(2)郡又は都道府県の区域を地区とする農会は、都道府県農業会が成立した時に解散し、農会権利義務は都道府県農業会がこれを承継しました(農業団体法第88条、91条)。
(3)市町村の区域を地区とする農会は、勅令で定める場合を除いて、市町村農業会が成立した時に解散し、農会の権利義務は市町村農業会がこれを承継しました(農業団体法第88条、91条)。


 以上のことで、村農会は、その区域の農業会に承継されたということがわかり、早速、その区域の農業会の謄本を法務局に申請しました。△△農業会、この法人が農会の承継法人です。さあ、あとは、農業会の抵当権の抹消の場合と同様に、農業会の清算人が生きておられればその方から抵当権抹消の委任状を交付を受ければいいということになったのですが、調査してみると、皆さん亡くなっており、裁判所に清算人の選任申立をする必要がある事になりました。

 そして、清算人選任の申立書を作成し、いざ裁判所に申請しました。すると、「農会の謄本はないですか?」と裁判所書記官の方から聞かれ、農会の場合登記を要しない法人である旨を伝えたのですが、一応その疎明できる書類を用意していただけないかということでした。
 はて、法人が登記されていないのだから、その場合どうしたらいいか?不動産の全部事項証明書には、抵当権者として記載があるだけで他に疎明する資料はないかと、いろいろ事務所内で検討した結果、農業委員会の方だったら、分かるかもしれないということで、○○村農会を管轄する町の農業委員会に問い合わせてみました。
 すると、その町の助役のかたが、○○村農会のことを記憶されていました。そこで、その町の財務課にその資料が無いかと問い合わせてみますと、村から町への合併の際の書類がこの件に関しては無いということでした。仕方なく、裁判所から、疎明資料として農会が存在したということを証明していただけないかと、お願いしたところ、快諾していただき、その書面を追加の書面として裁判所に提出し、その2週間後に清算人選任の決定が出ました。
 そして、その清算人の方から、抵当権抹消登記の委任状に印を頂き、無事抵当権の抹消をすることができました。


〜あとがき〜
 このように、昔の古い抵当権のことを、休眠抵当権と呼びます。つまり、ずっと眠っている抵当権ということですね。このような抵当権は、その抵当権のついている土地を売買する時などに判明することが多いのです。抵当権者がまだ現存していればいいのですが、名称が変わったり、消滅してしまうと、このように大変時間をかけてその抹消登記をする必要に迫られます。
 債務が無くなったんだから、抵当権の抹消はしなくてもいいなんてことはありません。取引の実状から言えば、古い抵当権があると、銀行さんは、まず、古い抵当権を抹消してくださいと言われるでしょうから、気をつける必要があります。つまり、債務を完済したら、それと同時に抵当権も抹消しておいた方が後々のためということです。