競売物件の購入

 最近日刊新聞紙に競売物件の広告が掲載されるのをよく見かけるようになりました。それに併せて、競売に伴う登記の依頼というのも増えてまいりました。
 
  以前は、住宅ローンを利用して競売物件を購入するのは以前は余りなかったようですが、平成10年の民事執行法の改正により、その利用が増えました。

 以前は、競売物件をローンを利用して購入した場合、競落人(購入者)への所有権移転登記は、民事執行法の規定により、裁判所が法務局に嘱託(申請)するので、その登記が終わってから抵当権の設定登記をするというのが通例でした。すると、裁判所による所有権移転登記と司法書士が書類を金融機関から預かって抵当権設定登記を申請する間に数日の日数を挟むため、金融機関としてはその間に何らかの登記が入るのではという懸念があったため非常に利用しにくいものとなっていました。

 そのような状況を打開すべく民事執行法の改正が平成10年に行われました。
 どのように改正されたのかといいますと、裁判所が法務局に競落人(購入者)への所有権移転登記を嘱託(申請)する点は変わらないのですが、改正前の問題点を解決すべく、裁判所が嘱託(申請)する所有権移転登記の書類を司法書士等が預かり、抵当権設定登記と一緒に法務局に申請することができるようになりました。この改正により、住宅ローンを使用しながら中古住宅をスムーズに購入することができるようになりました。

 競売物件は市価より割安であることに加え、住宅ローンを利用して購入することができるようになり、これから購入をお考えの方もあろうかと思います。いわゆる市販本にも競売物件の購入に関する本というのがたくさんありますが、司法書士として実際に競売事件を扱ってみて注意して頂きたいと感じたことをいくつか掲載してみようと思います。
<注意点>
@まず、競売物件の現物と権利関係を確認する。
 裁判所には、競売物件に関する物件の明細書、裁判所執行官による現況調査報告書、不動産鑑定士作成による評価書が備え付けられており、それらは、誰でも無料で閲覧できるものです。そして、その権利関係、所在、は、法務局の不動産全部事項証明書(登記簿謄本)、公図・地積測量図・建物図面等で確認できます。
 執行官の現況調査書には、その建物の外観・建物内の写真があり、現在その物件に占有者がいるか、境界は明確かどうか等詳細な記載がありますが、現物を実際に行って見る必要があるでしょう。競落するまでは他人様のものですから、中を見ることはできません。境界標識があるかどうか、どこまでが敷地になるのかという点は注意が必要だと思います。まず、境界の不明確な物件には金融機関は融資をすることができません。また、現地に境界標識がなくて隣地と続いているように見えてしまうこともありますので、公図・地積測量図・建物図面を利用して現地で実際にどのようになっているか確認したほうがいいでしょう。しかし、他人様のところに行くのですからいろんな面で配慮する必要はあると思います。
 競売物件の競落後の権利関係についても執行官の現況調査書に記載がありますが、競落後に残る権利については特に注意を要します。

A買受人となる。
 不動産の最低売却価格の20%の保証金を支払い、入札に臨むことになるのですが、誰が資金を出すかという点は注意をしてください。
 それは、なぜか。これは、通常の不動産の取引の場合も同様なのですが、出資割合で所有権(持分)登記をしないと、贈与税の問題が生じてしまうからです。資金を出していないのに、所有権登記名義人になるということは、贈与となるからです。
 住宅ローンを利用して競売を利用する場合、一人で借入をし一人で返済する場合は、その人だけで買受申出をすれを良いのですが、複数名で購入する場合、夫婦共働きで双方の給与から住宅ローンの返済をする予定場合(借入について連帯債務となる場合)、この場合は特に注が必要でしょう。この場合に、ご主人の名前だけで買い受け申出されるケースが非常に多いということです。所有権登記名義人は、ご主人のみ、借入については、連帯債務(つまり、双方の収入から返済する)となると税務署はこれは「贈与じゃない?」と判断する場合があるのです。すると、その所有権登記を直すのに、さらに費用が必要となってしまうのです。
 司法書士に、住宅ローンを利用して競落される場合の抵当権設定登記の依頼が金融機関から来るときには、裁判所の売却許可決定が出てしまっているので、どうしようもありません。ですから、この場合には、夫婦両名で買受申し出をする必要があるのです。

B競落してみてビックリ!
 競売物件は、前述した通り競落するまでその中を見ることはできません。執行官の現況調査書に何枚か写真がありますが、全ての部屋の全ての角度での写真があるわけではありません。
 実際に、競落物件に入ってみたら大きな仏壇があったとか、思っていた以上に傷みがあったとかということがあります。いろんな面を加味して、市価より割安になっているという点の認識は必要です。
 競売物件に占有者があったり、仏壇があったりする場合には、売却期日(競売代金の支払日)から6ヶ月間は、裁判所に対して、簡易な方法で債務名義(判決)を取得して完全な引渡しをしてもらうための「引渡命令」の申立てをすることができますので、その命令をえてその執行をする必要がある場合もあります。

<最後に・・・>
 わからないことは、すぐ聞いてみること。裁判所の書記官や法務局の登記官、皆さん丁寧に教えてくださるはずです。また、登記の専門家司法書士にも相談してみてください。