特定債務等の調整の促進のための
特定調停に関する法律


平成12(2000)年2月17日施行


(目的)
第1条 この法律は、支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再
生に資するため、民事調停法(昭和26年法律第220号)の特例として特定
調停の手続を定めることにより、このような債務者が負っている金銭債務
に係る利害関係の調整を促進することを目的とする。

(定義)
第2条  この法律において「特定債務者」とは、金銭債務を負っている者
であって、支払不能に陥るおそれのあるもの若しくは事業の継続に支障を
来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であるもの又は債務
超過に陥るおそれのある法人をいう。

 2  この法律において、「特定債務等の調整」とは、特定債務者及びこ
れに対して金銭債権を有する者その他の利害関係人の間における金銭
債務の内容の変更、担保関係の変更その他の金銭債務に係る利害関係
の調整であって、当該特定債務者の経済的再生に資するためのものをい
う。

 3  この法律において「特定調停」とは、特定債務者が民事調停法第2
条の規定により申し立てる特定債務等の調整に係る調停であって、当該
調停の申し立ての際に次条第1項の規定により特定調停手続により調停
を行うことを求める旨の申述があったものをいう。

 4  この法律において「関係権利者」とは、特定債務者に対して財産上
の請求権を有する者及び特定債務者の財産の上に担保権を有する者を
いう。

(特定調停手続)
第3条 特定債務者は、特定債務等の調整に係る調停の申立てをすると
きは、特定調停手続により調停を行うことを求めることができる。

 2  特定調停手続により調停を行うことを求める旨の申述は、調停の
申立ての際にしなければならない。

 3  前項の申述をする申立人は、申立てと同時に(やむを得ない理由
がある場合にあっては、申立ての後遅滞なく)、財産の状況を示すべき明
細書その他特定債務者であることを明らかにする資料及び関係権利者の
一覧表を提出しなければならない。

(移送等)
第4条 裁判所は、民事調停法第4条第1項ただし書の規定にかかわら
ず、その管轄に属しない特定調停に係る事件について申立てを受けた場
合において、事件を処理するために適当であると認めるときは、土地管轄
の規定にかかわらず、事件を他の管轄裁判所に移送し、又は自ら処理す
ることができる。

第5条 簡易裁判所は、特定調停に係る事件がその管轄に属する場合に
おいても、事件を処理するために相当であると認めるときは、申立てによ
り又は職権で、事件をその所在地を管轄する地方裁判所に移送すること
ができる。

(併合)
第6条 同一の申立人に係る複数の特定調停に係る事件が同一の裁判
所に各別に係属するときは、これらの事件に係る調停手続は、できる限
り、併合して行わなければならない。

(民事執行手続の停止)
第7条 特定調停に係る事件の係属する裁判所は、事件を特定調停によ
って解決することが相当であると認める場合において、特定調停の成立を
不能にし若しくは著しく困難にするおそれがあるとき、又は特定調停の円
滑な進行を妨げるおそれがあるときは、申立てにより、特定調停が終了
するまでの間、担保を立てさせて、又は立てさせないで、特定調停の目的
となった権利に関する民事執行の手続の停止を命ずることができる。ただ
し、給料、賃金、賞与、退職手当及び退職年金並びにこれらの性質を有
する給与に係る債権に基づく民事執行の手続については、この限りでな
い。

 2  前項の裁判所は、同項の規定により民事執行の手続の停止を命じ
た場合において、必要があると認めるときは、申立てにより、担保を立て
させて、又は立てさせないで、その続行を命ずることができる。

 3  前2項の申立てをするには、その理由を疎明しなければならない。

 4  民事訴訟法(平成8年法律第109号)第76条、第77条、第79条
及び第80条の規定は、第1項及び第2項の担保について準用する。

(民事調停委員の指定)
第8条 裁判所は、特定調停を行う調停委員会を組織する民事調停委員
として、事案の性質に応じて必要な法律、税務、金融、企業の財務、資産
の評価等に関する専門的な知識経験を有する者を指定するものとする。

(関係権利者の参加)
第9条 特定調停の結果について利害関係を有する関係権利者が特定
調停手続に参加する場合には、民事調停法第11条第1項の規定にかか
わらず、調停委員会の許可を受けることを要しない。

(当事者の責務)
第10条 特定調停においては、当事者は、調停委員会に対し、債権又は
債務の発生原因及び内容、弁済等による債権又は債務の内容の変更及
び担保関係の変更等に関する事実を明らかにしなければならない。

(特定調停をしない場合)
第11条 特定調停においては、調停委員会は、民事調停法第13条に規
定する場合のほか、申立人が特定債務者であるとは認められないとき、
又は事件が性質上特定調停をするのに適当でないと認めるときは、特定
調停をしないものとして、事件を終了させることができる。

(文書等の提出)
第12条 調停委員会は、特定調停のために特に必要があると認めるとき
は、当事者又は参加人に対し、事件に関係のある文書又は物件の提出
を求めることができる。

(職権調査)
第13条 調停委員会は、特定調停を行うに当たり、職権で、事実の調査
及び必要であると認める証拠調べをすることができる。

(官庁等からの意見聴取)
第14条 調停委員会は、特定調停のために必要があると認めるときは、
官庁、公署その他適当であると認める者に対し、意見を求めることができ
る。

 2  調停委員会は、法人の申立てに係る事件について特定調停をしよ
うとするときは、当該申立人の使用人その他の従業者の過半数で組織す
る労働組合があるときはその労働組合、当該申立人の使用人その他の
従業者の過半数で組織する労働組合がないときは当該申立人の使用人
その他の従業者の過半数を代表する者の意見を求めるものとする。

(調停委員会が提示する調停条項案)
第15条 調停委員会が特定調停に係る事件の当事者に対し調停条項案
を提示する場合には、当該調停条項案は、特定債務者の経済的再生に
資するとの観点から、公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のもの
でなければならない。

(調停条項案の書面による受諾)
第16条 特定調停に係る事件の当事者が遠隔の地に居住していること
その他の事由により出頭することが困難であると認められる場合におい
て、その当事者があらかじめ調停委員会から提示された調停条項案を受
諾する旨の書面を提出し、他の当事者が期日に出頭してその調停条項案
を受諾したときは、特定調停において当事者間に合意が成立したものと
みなす。

(調停委員会が定める調停条項)
第17条 特定調停においては、調停委員会は、当事者の共同の申立て
があるときは、事件の解決のために適当な調停条項を定めることができ
る。

 2  前項の調停条項は、特定債務者の経済的再生に資するとの観点
から、公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものでなければなら
ない。

 3  第1項の申立ては、書面でしなければならない。この場合において
は、その書面に同項の調停条項に服する旨を記載しなければならない。

 4  第1項の規定による調停条項の定めは、期日における告知その他
相当と認める方法による告知によってする。

 5  当事者は、前項の告知前に限り、第1項の申立てを取り下げること
ができる。この場合においては、相手方の同意を得ることを要しない。

 6  第4項の告知が当事者双方にされたときは、特定調停において当
事者間に合意が成立したものとみなす。

(特定調停の不成立)
第18条 特定調停においては、調停委員会は、民事調停法第14条の規
定にかかわらず、特定債務者の経済的再生に資するとの観点から、当事
者間に公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容の合意が成立する見
込みがない場合又は成立した合意が公正かつ妥当で経済的合理性を有
する内容のものであるとは認められない場合において、裁判所が同法第
17条の決定をしないときは、特定調停が成立しないものとして、事件を終
了させることができる。

 2  民事調停法第19条の規定は、前項の規定により事件が終了した
場合について準用する。

(裁判官の特定調停への準用)
第19条 第9条から前条までの規定は、裁判官だけで特定調停を行う場
合について準用する。

(特定調停に代わる決定への準用)
第20条 第17条第2項の規定は、特定調停に係る事件に関し裁判所が
する民事調停法第17条の決定について準用する。

(即時抗告)
第21条 第4条の規定による移送の裁判、第5条の規定による裁判、第
7条第1項及び第2項の規定による裁判並びに第24条第1項の過料の裁
判に対しては、その告知を受けた日から2週間の不変期間内に、即時抗
告をすることができる。

 2  第4条の規定による移送の裁判、第5条の規定による裁判及び第
24条第1項の過料の裁判に対する即時抗告は、執行停止の効力を有す
る。

(民事調停法との関係)
第22条 特定調停については、この法律に定めるもののほか、民事調停
法の定めるところによる。

(最高裁判所規則)
第23条 この法律に定めるもののほか、特定調停に関し必要な事項は、
最高裁判所規則で定める。

(文書等の不提出に対する制裁)
第24条 当事者又は参加人が正当な理由なく第12条(第19条において
準用する場合を含む。)の規定による文書又は物件の提出の要求に応じ
ないときは、裁判所は、10万円以下の過料に処する。

 2  民事調停法第36条の規定は、前項の過料の裁判について準用す
る。

  附 則

(施行期日)
 1  この法律は、公布の日から起算して2月を経過した日から施行す
る。

(民事訴訟費用等に関する法律の一部改正)
 2  民事訴訟費用等に関する法律(昭和46年法律第40号)の一部を
次のように改正する。  
 第5条第1項中「第19条」の下に「(特定債務等の調整の促進のための
特定調停に関する法律(平成11年法律第158号)第18条第2項(第19
条において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)」を加
える。
 別表第1の17の項ホ中「第27条第8項の規定による申立て」の下に「、
特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律第7条第1項
若しくは第2項の規定による民事執行の手続の停止若しくは続行を命ず
る裁判を求める申立て」を加える。