家賃の滞納  (広島県司法書士会会員)

 昨年の10月中ごろ、私の事務所に以前からの知り合いのM氏がこられました。以下はM氏の相談内容です。

 「家屋明渡請求訴訟というのは弱者をたたくことになるのか、賃貸借契約当時から賃料の滞納が常態で、今では10ヶ月分の滞納となってる。督促の都度追い返されている。管理をしてくれている不動産屋さんもあの女性は苦手だ、私の手におえないと交渉してくれない。警察にも頼んだが、警察の仕事ではありませんよと笑われた。生計をこの家賃収入に頼っている老人の私こそ経済的弱者と思われませんか?相手には差し押さえる財産もなさそうなので、今までの延滞賃料の回収はあきらめているが、とにかく一刻も早く出ていって欲しい。保証人?保証人なんていません。契約をする時に保証人を立てるよう相手方に要求したのですが、保証人を立てないまま、契約当初から居座っているんです。裁判は長い期間がかかるときいてますが、これしか方法はなさそうなので訴状を書いて欲しい。」

 80歳のM氏の依頼に対し私は相手方に督促および条件付契約解除の内容証明文書を発送するよう進めました。同文書をM氏が発送した後、相手方から回答書がM氏に届きました。そこには「私の月々の収入がそれほど多くないので、生活費に収入の大半を使ってしまい、いけないとは思いながら家賃を滞納する結果となり、誠に申し訳ありません。少しでも誠意を示したいと思いますので一方的で勝手なお願いですが以下の返済計画案のとおり支払うようにさせていただきたく・・・」とありました。なかなか殊勝な方のようではありませんかと私はM氏にいいました。いやいやいつもこんな感じで、これは相手の手口ですとM氏。それから3ヶ月経過し、M氏「家賃の滞納が3ヶ月分増えただけです。やはり自分で提案した返済計画案すら全く守らず一銭も支払ってくれません。

 結局、訴状を作成し訴えの提起となりました。それから1ヶ月後が第1回口頭弁論期日となりました。その前日M氏「私が出頭してどうしゃべればいいんでしょうかね。」私「賃料を全く支払ってくれなくなったんで、滞納分を支払って欲しい。そして出ていって欲しいとMさんがいつも言われておられるとおり述べられればいいんじゃあないですか。裁判からの多少の確認の質問があるくらいで、明日は5分間くらいで裁判は終わり、また1ヶ月後くらいの第2回口頭弁論期日に出頭するようになると思います。

 当日の午後、Mさんが私の事務所にこられました。「相手方は、生活が苦しいからもうすこし猶予を下さいというので、滞納家賃もいらない、引越料も多少なら出してもいいからとにかく出ていって欲しい。こちらの生活も窮するから一刻も早くと述べると相手方も同意したので和解室で相手方と和解調書を作成し、一応これで解決いたしました。」
 とのMさんの報告を受けました。