どうすりゃいいんだ!性病対策

クラミジア検査の悲劇

尿道の病気,なかんずく急性尿道炎,特に性行為感染症,とりわけクラミジア.これが何と言っても世界チャンピオン,東の横綱,オリンピックマラソンの金メダル,野球のジャイアンツ,サッカーのアントラーズ,大リーグのヤンキースなのだ.その感染頻度たるや全妊婦の約5%,感染既往は約25%とか.病気ではない,もはや疫病の域に達している.

クラミジアは検査結果の判断が現場を混乱させているのだ.まず,基本知識として,女性の場合は血液で判定することが多い.すなわち,クラミジアに対する抗体をチェックするわけだ.抗体だから,治療が完了してもなかなか消滅しない.抗体が陽性ということは,クラミジアに”感染している”か”感染したことがある”を示すことになる.英語の文法でいえば,過去型もしくは現在進行型だ.これに対し,男性の場合は尿のなかのクラミジアそのもののDNAを調べる.その結果が陽性であればクラミジアが”尿道にいる”ことになる.過去は問わない.英語の文法でいえば現在進行型だ.男女の検査結果のこの差,過去型を含むか含まないかが話を混乱させるのだ.

性行為感染症は男女の性行為でうつる.これが話を深刻にする.ダンナがありきたりの男,浮気もの,遊び人,女ずき,ウルトラ助けべえ,女泣かせ,風俗愛好家などであれば話は簡単なのだが,男がみんな,そうとは限らない.俗に言う軽石族(カカとするだけ),ヨメさんを生涯唯一のパートナーと決めている謹厳実直派も結構いるわけだ.そうなると,話はややこしい.シェークスピアもオドロキの悲劇が展開されることになる.

プロローグ(序章);主人公,自分のヨメさんが妊娠をきっかけに血液検査を受けて,クラミジア陽性と診断された男が登場する.ヨメさんは現在進行型とガッテンし,ダンナにうつされたと思い,検査を勧める.

第一幕;検査を勧められたダンナはふと考え込む.”オレは生まれてこのかた,ヨメさん以外の女性は手も握っていないぞ”と.検査を受けろとはどういうことだ.オレはヨメさん以外にうつされる相手はいないはずだ.じゃ,ヨメさんは誰かオレ以外からうつされたのか.進行型となりゃ,最近の話,浮気だ,まちがいない.キレる,マクベスの心境だ.

第二幕;検査を勧められた別の男は覚えがあるのか,病院受診.そこで,尿の検査を受けて陰性,感染してませんの結果をもらう.ここでダンナは考え込む.ヨメはんは感染してる,オレはしてない.じゃ,ヨメはんは誰から感染したのだ.悶々と考え込むハムレットの心境だ.

第三幕;自分も検査を受けて陰性と判定された別の旦那.医師に女性の場合は過去型もありうるとの説明を聞く.と,ダンナはここで疑問の雲がムクムク.ヨメはんは一緒になったとき,男性との過去はないと宣言した.確かにそう言った,それがなんということ,過去があったばかりか,病気までもらっていたとは.純情一途なダンナはロミオの心境だ.

エピローグ(終章);本来なら”おめでた”ニュースで益々ラブラブのカップル,ここで激震が走る.疑心暗鬼,暗中模索,相互不信,傍若無人.ここから先は阿鼻叫喚.

いずれの場面も泌尿器科外来ではめずらしいことではない.これが,昔のように”検査にもまちがいがある”と言えれば,まあまあとりあえずということになる.しかし,今の検査法は泣く子も黙るDNAだ.警察,裁判所のおスミつき.その検査結果の信頼度はピカイチ.太陽が西から上がることがないくらいに確かなこと,絶対なのである.そうなると,間違いは何か,ウソしかない.夫婦のどちらかがウソをついてる,ということだ.とくにヨメさんのウソ.クラミジア抗体検査は過去ある女性にとって,巧妙なウソ発見器になってるわけだ.これが,妊娠時に調べられるからたまったものではない.せめて,交際の初期段階あたりで判明していれば解決法もあるのだが.なお,クラミジア検査にはDNA以外の方法もあるから注意.

世に隠しておいたほうが幸せな真実は山ほどある.情報公開,透明性,技術革新は何もかも暴く.それが狂気になり,誤った正義感になり,暴走を続けてヒトを追い込む.クラミジア抗体検査がもたらす夫婦間のシェイクスピア悲劇のひと幕.真実を明かすべきか,隠すべきか,それが問題だ.


淋病の卷

男子急性尿道炎,つまり性行為感染症のなかでは淋菌によるものが,なんといっても老舗なのだ.今でこそクラミジアが若い男女の注目の的であるが,淋病の風情,風格,男臭さは義理人情の世界に通じ,むこう敵なしである.男の花道,根性一代,オンナにわかるか,黙って勝負,極寒網走番外地てなもん.チャラチャラしたクラミジアなんぞとは痛さが月とスッポンだ.

紀元前500年,すでに淋病の記載があった.中国春秋時代の国王が最初だったとか.この時代,学会で認定された泌尿器科専門医がいるわけでなし,カルテがあったわけでなし,感染するような場所で遊んだという病歴があるわけでなし.尿道分泌液の染色でコーヒー豆型の淋菌が顕微鏡の視野に見えたわけでなし.淋病に感染した証拠を見せろといわれりゃ,何がなんでもということになり,考古学者なみに状況証拠だけで,東北地方の旧石器時代と認定された古墳のようになってしまう.で,この国王が淋病であったという証拠は,排尿時の強烈な痛みと尿道口から出てくる膿,古今東西変わらない症状だけが決め手.困った国王は膿さえ出せば治ると考え,戦争で負かした隣の国の王に膿を吸わせた.

勝てば官軍,負ければ賊軍.戦争で勝てば何でもあり,負てりゃ何もかも失う.勝てば何でも言える,負りゃ何も言えない.国土,建物,ヒトを奪われ,国王は命以上のオトコの尊厳も奪われた.いやもう,中国の戦国時代,ヒトが考え付くありとあらゆる拷問がおこなわれ,ありとあらゆる報復手段が日常だった.陽のない暗闇の地下牢で一生なんて序の口,熱湯釜ゆでのあとの人間スープを親や子に飲ませるなんてのは幕下,馬に両手両足をつなぎ股さきなんてのは幕内,手足を切断して目耳をそぎ便壷へなんて横綱級のもある.戦争でまけた国王が戦争で勝った国王の淋病を治すため,その膿を口で吸いだすことぐらい,臣従の情を示すためには当然のことだったかも.ただ,この負けた国王,えらいのはこの12年後,臥薪嘗胆のすえ淋病持ちの国王に反旗をひるがえして報復したとか.女にはわからん男の執念ですぞ.

1600年代の始め,日本にも発掘あるある大辞典,ちゃんと記録が残ってる.”泣くまでまとう”のホトトギス将軍,徳川家康である.老後,なんと60才を過ぎて淋病に苦しんだというから立派.当時,信長の好きな謡曲に”人間50年”といわれたほどのヒトの寿命,現在でいや100才過ぎての性行為感染症に罹患となる.もちろん,抗生物質のない時代,高齢の身にはそうとう痛かったことと同情する.もちろん中国の歴史に詳しい家康のこと,決して膿を吸いだしてもらうなんてことは考えなかったにちがいない.なんせ”泣くまでまとう”オジサンである.関ケ原で打ち負かした大名はたくさんいたが,臥薪嘗胆,報復されたらかなわない.

江戸時代の淋病の治療法は川柳にある.

”りん病の 薬 赤染衞門なり”

赤染衞門とは女性の月々の生理のことで,女性には失礼な話,この期間に女性とガンバルと淋病が治ると言われていた.なんでこういうことになったのか,理解に苦しむが.江戸城の大奥も大変だったろうな,家康にはこれしか方法がなかったのだから.

”淋病に なる間男は 不首尾なり”

ことのついでに淋病の原因論に言及した川柳.不倫の現場がみつかりそうになって,途中で中止,それが淋病の原因になる.つまりこの時代は射精を我慢すると淋病になると言われていた.精液が逆流するとでも考えたのであろうか.

”淋病は 首を拾った かわりなり”

今とちがい,江戸時代は不倫の現場を見つかれば,その場で問答無用,首を切ってもおとがめ無し.この句は,あやうく現場をみつかりそうになった男,うまく逃げれて首は助かったが淋病になったというわけ.

1879年,淋病が淋菌によって感染するとわかるまで,庶民はその原因をいろいろ考えた.結果として不倫という道徳性に結びつけたのが知恵.2001年,クラミジアに代表される今日の性行為感染症の猛威,行き着く先の最後の知恵はやっぱり道徳性か.次回のテーマは性行為感染症の予防対策に関するミレミアム的考察の数々.


コンドームの卷ーその1

大学時代,ボートの合宿の合間に激励会が催された.先輩が社長をしてるというゴム会社の保養所で.宴会の始めにゴム会社社長は挨拶した.

”我が社は日本でも5本の指に入るゴム製品の会社であります.”

 (おっ,ブリジストンや横浜タイヤの仲間か.)

”製品は世界中に輸出されています.”

 (トヨタ,ニッサンもこれがなくては.)

”世界中の恋人にお世話になっているのです.”

 (あれっ,自動車のタイヤの会社ではないのか,ダイヤかな?)

”最近では極く薄いのも愛用され,カラーのもあります.”

 (テレビのブラウン管の会社か?)

”諸君には月に何ダースでも愛用するぐらいの体力をつけていただきたい.”

 (1ダース単位で売ってるもので,タイリョク?)

”昔は受胎調節,今は病気予防.”

 (そうかあ,先輩の会社は,ゴム製品といってもアレの会社かあ.)

と,いうことで今回は性行為感染症の予防に必須のコンドームの話.

ボート合宿の激励会はこれで終わらなかった.翌日,社長は自慢の工場に我々部員一同を案内したのだ.工場見学の最後が製品検査室で,ズラッと煙突状に直径5センチ,長さ50センチほどの円筒状のものが立ち並んでいた.白衣姿の十数人のギャルが,これに次から次にコンドームを被せては膨らまし,強度試験を行っていた.いや,もう,その陰茎にみたてた円筒のデカイこと.また,その先端からクルクルっと製品をかぶせるギャル達の手つきの色っぽいこと.連日の合宿で生理的欲求の蓄積した,ボート部大学生連中は異様な雰囲気となり,鼻血ブー寸前となった.その日,合宿所に戻っての入浴の時,常よりタオルで前を隠す連中の多かったのは,デカい円筒を見せつけられてのコンプレックス.夜,布団の中で悶々として寝付かれずにいたのはギャルの白い指の扇情的テクニック.いずれもチョー元気イッパイの大学生達には残酷な夏の一夜でした.

18世紀の頃より使われ始めたというコンドームは貴族達に限定された高級品,その材料には絹が使われていた.やがて動物の虫垂,山羊の膀胱,魚の浮袋など天然素材ものが使われたが,まだまだ庶民には簡単には手に入らなかった.19世紀後半,ついにゴム製品が登場し,さらに現在のラテックス・ゴムとなり,超大量生産が可能になった.当初の目的は病気の予防であったが,安価で大量に出回るようになって避妊具としての活路を得た.薄くて丈夫で長持ちが,若い恋人たちの人気になった.ところでこの製品,勝手には作れない.厚生省告示および日本工業規格(JIS)によって,長さ,厚さ,伸び具合等がきびしく制限されている.どの会社の製品も似たような具合になってるのは,役人の厳しい監視のおかげ.

最近ではストレートにコンドームとかコンドーさんとか呼ばれるが,この製品にも時代に即した呼び名があった.”ボーシ””春雨””長靴””ハート美人”は戦前,”突撃一番”てのは戦時中で,病気をうつされるのを覚悟で突進するという理由か.”ゴム製品””衛生サック””一姫二太郎”は避妊具として戦後脚光をあびた頃.”スキン”となると薄型が出回った近頃の話.ところで先日ムツミさんという看護婦さんが結婚した.苗字が変わったのだが,同じ苗字の人が別にいたので白衣につける名札には名前の一字が追加された.なんと結婚後の名札は近藤(ム)となった.

コンドームは経口避妊薬の出現で避妊具としての地位を危うくした.ゴム会社の株価も下がり,ボート部の先輩社長も景気が悪くなったと,ぼやいていた.ところがである,ここにエイズを始めとする性行為感染症の世界的大流行,会社はみごとに立ち直った.中学,高校生が常時携帯する世の中になったのである.昔,薬局でしか手に入らなかったものが,今や,コンビニで簡単に手に入る時代になった.

プーンと鼻をつく消毒薬の臭い,コンドームを買いに薬局のドアーを開けると独特の雰囲気があった.店のオッサンが奥から出てくればマスクを買った,オバチャンがでてくればうがい薬を買った,お嬢さんが出てくればバンソウコウを買った,耳が遠くて目の悪いオバアチャンが出てきたときだけ”アレ”が買えた.時代は確実に移ったのデス.


コンドームの卷その-2 

性行為感染症の予防にはコンドームが一番である.わかってちゃいるが,この正しい使い方に関しては情報はゼロ.詳しい取り扱い説明書やパンフレットの類はなく,高校の保健の授業でも教わらない耳学問の世界.そこで今回はその正しい使用法について論じようというわけ.引用はなんとアメリカ合衆国公的機関発表の使用説明書だ.

一.再使用しないこと.

むかしはよく見かけたらしい,軒先に洗濯バサミでつるして干してある光景が.一度使ったのを,よく洗ってサラシ粉を振りかけ,もう一度という魂胆.もちろん一般家庭の話ではない.繁華街のはずれ,花街でのこととか.大量生産前は値段が高いこともあり,使い捨てるにはもったいない時代もあった.ラテックス・ゴムとなり,超大量生産が可能になった今日では聞かない話だが.家電リサイクル運動で洗濯機にテレビに冷蔵庫,何から何までリサイクルばやりの昨今,昔にかえって再生使用が見直されるかも.コンビニの入り口に置かれたリサイクルボックス,使用済みのを高校生がポンポン投げ入れる光景を想像するとゾッとするが.なお,まちがっても使用直後に裏返して再利用しないこと,パンツじゃないんだから.

二.使用期限に注意すること.

期限切れのは品質が落ちてる可能性があるとか.トーフや卵じゃあるまいし,そう短期間には品質が落ちるとは思えないが.ただ購入単位がダースなので,なかには一箱の使用が購入後3年なんてカップルもいるかも.これを称して年4回,四季のカップルという.6年もつのは年2回,お歳暮カップル.年1回は七夕カップル.一箱で一生もつのは,災害カップル,忘れた頃に使うとか.

三.直前に使わない.

コトの寸前にタイミングよく装着できるものではない.射精という現象は呼吸と同じで,自制が効く範囲が限られているのだ.女性にはこれが理解できないらしい.水道の蛇口なみに考えてるふしがある.直前は危険極まりないことを認識すべし.といって,あまり早くから装着するのも具合が悪い.友人に用心深いのがいて,ふろ上がりにパジャマと一緒に装着したのがいたが,コトの前に新妻と話がはずみ,話の最中にハズレたとか.しかも,それに気がつかずコトが進み,十ヵ月後ハネムーン・ベイビーが生まれる羽目に.最近のは極薄で使用感がなく,途中での離脱に気がつかないこともある.まあ,装着のタイミングたって,タイヤのチェーンじゃあるまいし,適当な頃合にとか説明するしかないよなあ,コトの成り行きには個人差があるんだから.

四.高温多湿の場所は避けること.

オイオイ,どういう場所で使おうてんだ,高温多湿ってのは.真夏のインドネシアは赤道地帯,スコールの最中の真昼間に,熱帯樹林に囲まれたメコン川に浮かべた船の上でってことか.それとも人目の多いニッポン,梅雨の時期,たんぼの畦道に軽自動車を止めて,窓を閉めきって,その中でってことかい.いやいや青春時代のど真ん中,お盆休みのJRガード脇,スレート屋根の下の窓もない4畳半ひと間,3年間ひきっぱなしのジトジトせんべい布団の中,うちわ片手に石鹸箱カタカタ鳴らせようというわけか.まあ,使用場所はカップルの勝手だが,保管場所だけは直射日光とジメジメを避けるようにってこと.

五.破けたら直ちに取り替える.

破けても簡単には取り替えてくれなかったよなあ,昔は.ふすまに靴下に学生服の肘.手袋に,金魚すくいの網に,地図.傘にパンツにシャツに風呂敷.でもアレばっかりは破けるとセロテープでの応急処置もなければ,継ぎあてもない.まるごと取り替えるしかないよなあ.それにしてもおかしなことを言うな,アメリカの役人は.破けたかどうかがコトの最中にどうわかるってんだ.アメリカ人は先端に視覚センサーでもついてるってことか.それとも先端の触覚が手の指なみに発達してるってことか.あるいはアメリカの製品は品質が悪く,破れたらビリッと音でもするのか.乃木大将の家系じゃないが,コトは静かに行うべしってことか.

ということで,今回は性行為感染症の予防論をあくまでもカップルの立場になり,現場主義かつ実践的見地でもって臍下三寸的に追及したという次第であります.


コンドームの卷-その3

コンドームの正しい使い方に関する前回の衝撃的レポートは極めて好評であった.かぶせりゃいいんだろう,間に合えばどうということはない,ゴムだから丈夫で長持ち,子供じゃないんだからそんなこと,と日頃着用をやかましく言うものの,正しい取り扱いを説明されることは皆無だった.なんとかなるさ,聞くほどのことはない,確かめるったって彼氏はダイジョウブ,というような日和見的でかつ個人主義が横行する領域.そこで百万読者の圧倒的多数,まさにコイズミ的要望に答え,今回さらに続編を.出典は同じくアメリカ合衆国の公的レポート.

六.ラテックス製を使うこと。

天然ゴムはHIVおよび他のウイルス性STDに対する防御力が弱いという.理由はわからないが,天然ものはダメらしい.ハマチにカキにタイ,寿司屋では天然ものが好まれる.時価なんて恐ろしい札がかかってるのは大抵天然ものだ.にもかかわらず,これに限ってはゴムよりラッテクスがいいと.

七.傷がつかないよう,注意深く取り扱う.

そりゃそうだ,穴があいてりゃ全く無用の長物.避妊目的の場合はほんの1mmでもダメだ.何せ相手は精子,その頭の大きさは卵子の数十分の一だ.あのオタマジャクシのようなのが穴を通過してしまえば,万事休す.理論的には一匹でも通過するとヤバイことになるが,実際は相当の数が必要.性病予防となるともっとキビシイ.何せ相手はウイールスだ.細胞の中でウジャウジャ増殖するくらいだから,0.1mmの穴でもスコスコ通過.これも理論的には一匹でも感染ということになるが,実際は相当数必要だろう.破れないよう注意深くあつかうこと,家電製品の取り扱い説明書に書いてあるようなことしか言えない.

八.先端に余裕を残しておくが,空気は入れるな.

この余裕というのは,精液が貯留されるスペースをいう.ただしこのスペースに空気を入れてはいけない.しぼんだ風船,閉じたビニール傘,真空パック式ふとん袋,とまあ,ピッタリくっついたスペースが必要なのだ.空気が入るとコトの最中にパチンとはじけて破れる可能性があるという.

九.潤滑剤としては水性潤滑剤のみ使用する.

石油性または油性潤滑剤(石油ゼリー,食用油,ショートニング,ローションなど)はラテックスを破損させる可能性があるので使ってはいけないということだ.おいおい,食用油だの,ローションだの,どういうことだ,これは.イロイロ趣味が多彩な殿方,淑女がいらっしゃるということはお聞きしておるが.まあ,ここは深く追及するのは止めて,欧米の話ということにしておこう.

十.滑り落ちないように気を付ける.

コトがおわればいつまでも着用していてはイカンということ.いつまでも十代じゃあるまいし,そう元気な状態が長く続かない.着用を継続しようたって,収納部分の容積は急激に減少するんだから.そうミエをはらずに,終わればすぐに取りはずすこと.どうもミエっぱりが多いんだよ,男は.

カラオケで よせばいいのに モー娘,

サイズ取り ズボン新調 下腹に力,

支払は 年会費のみ ゴールド・カード.

釣り革も 握らず立位の 満員電車,

もしかしてと 財布にしのばす ラッテクス,

女性連れ 寿司屋で脅威の 時価メニュー,

ユニクロに 期待をかける 胴長短足,

爪切るに はずせばいいのに 近眼めがね,

ヒアリングの 上達方法さと 字幕ビデオ,

披露宴 誰に頼むか 海外祝電.

十一.病気の感染率を下げるが,完璧ではない.

淋菌の場合,使用しても4%ほどの感染率があるという.なぜ,ゼロにならないか,その理由はこれまでに挙げた10項目すなわち”ドーム10箇条”の取り扱い注意を守らないからである.今やクラミジアを筆頭に性行為感染症は流行病から疫病になりつつある.疫病撃滅対策の決め手,それは”ドーム10箇条”を厳守すること.デートの前に1回,手をつなぐ前に2回,接吻の前に3回の唱和をお願いしたい.もちろんコトの前は着用に専念すること.前線の若きカップル諸君,これは性行為感染症罹患危惧のカケラもない後方部隊からの老婆心なのだ.


性病の実態の卷-その1

性行為感染症(STD)に関する統計的総論が日本医事新報5月26日号に掲載されている.著者はこの道の権威,熊本悦明氏だ.今回はこの論文を参考に,STDの実態を探ってみようというわけ.STD大流行の要因は,1)性の自由化・多様化,2)STDの無症候化,3)低いコンドーム使用率の3点という.

性の自由化と多様化.具体的にいうと性活動開始時期の早期化と接触するパートナーの多さが第一の問題.これを数値化すると,最近のヤング(18才-24才)では男女とも約80%が10代に性活動を開始し,その約40%が5人以上のパートナーと接触するという.別の調査では結婚以前に90%がパートナーを有し,そのうち三分の一が7人以上という結果がでている.これらの数字が驚愕すべき値なのか,倫理・道徳に反する値なのか,,中・高校教育の貧困を糾弾すべき値といえるのか,今どきの若い連中はと嘆く値なのか.誰にも文句を言えない.

30年前と今の性活動状況は雲泥の差だが,周囲の環境も雲泥の差である.性活動を早めるべく環境が整い,性活動が活発になるべく環境が備わっている.食事も,住居も,服装も,交通手段も,体格も,娯楽も,性活動を制限する方向のものは何一つない.この種の情報は氾濫し,本も雑誌も漫画もインターネットも,誰でもどこでも無制限に入手可能である.ありとあらゆるものが性活動を早く,抵抗なく,安易にという方向に拍車をかけてきた.その結果,若者達は性の自由化と多様化を謳歌している.おとうさん達は知ってたんだよ.30年前,みんながあこがれたアメリカの映画やテレビドラマもそうっだたんだから.驚くことない,みんなでこういう国の方向を選択したんだから.

問題なのはこういう環境の中に,STDというとんでもない爆弾が投げ込まれたことなのだ.以前は病原体の供給源は歓楽街とか花柳街とか呼ばれる一区画であった.万一,そこから病原体が持ち出されても,本人もしくはその妻に限定され,垂直にゆっくり時間をかけて伝わった.その特殊な区画と一般の家庭とではSTDの罹患率には大差があった.ところが最近では性の自由化と多様化のおかげで,病原体が投げ込まれるとSTDは水平にかつ短時間に伝わるようになった.特殊な区画と一般家庭の区別がなくなり,罹患率の差がみるみる縮まった.まさに核爆発の連鎖反応なみだ.未婚妊娠女子のクラミジア陽性率は同年令の風俗産業就業女子より高いという.また,既婚妊婦の場合でも20代前半では6.5%が感染しているという.何度も言ったが,STDは病気ではなく,疫病になってしまった.

STDの無症状化が第二の問題.代表格はクラミジアで,断然女性優位である.男性に比べて罹患率が約2倍,淋病の場合は逆に男性の方が約4倍.ただ,クラミジアの場合は女性で症状がでるのはわずかに20%にすぎない.つまり,無症状の感染者を含めると実数は診断された数の約5倍ということだ.当然,無症状の感染者は治療しない.治療しないままに性の自由化と多様化に飛び込むもんだから,ものの見事に拡がるわけだ.無症状のSTDはこれだけじゃない,性器ヘルペスも,最近の淋病も,エイズも梅毒も.

無症状のSTDが性の自由化と多様化の状況に投げ込まれた今現在,対策はコンドームしかない.ところが,大学生の調査で判明したことだが,パートナーが一人の場合のコンドーム使用率は74%なのに比べ,パートナーが5人以上だと43%に低下する.性活動に慎重派は予防も慎重,性活動ルーズ派は予防もルーズという結果が第三の問題なのだ.そのうえ,コンドーム使用の主目的が避妊であるため,行為の途中から装着するのが80%という数字も出ている.STDの連鎖を絶ち切るにはコンドームしかないのだが,その使用方法はお粗末すぎる.

STD対策には国家戦略規模のキャンペーンが絶対必要.議院選挙候補者は全員コンドームをぶらさげてポスター写真を,やってよ小泉さん.すぐに.


性病の実態の卷-その2

先月号で述べた熊本悦明氏によるSTDに関する日本医事新報の論文は,もう一つの重要な警告を発している.エイズの問題だ.全国血液銀行の献血血液でのエイズ抗体陽性率をみると,全国レベルで10万人あたり1.1人,首都圏で2.8人となっている.別の統計では,隠れた感染例を含め,15-49歳人口で10万人あたり男10人,女4.9人という報告もある.クラミジア感染が男で人口10万人あたり約100人であることを考えると決して少ない数字ではない.しかも,感染例の報告数は年々増加の一途をたどっており,特筆すべきは30歳以下の異性間感染例では男女間で症例数に差がないということだ.エイズ感染は男に多いという一般的感覚は過去のものとなっている.エイズも男女同等の感染機会があり,その経路はクラミジアなどの性感染症と何ら変わらないということを認識すべきなのだ.

欧米ではエイズの出発点は同性愛患者間の感染で,性感染症の範疇に入る問題であった.したがって,予防に向けての啓発運動の立ち上がりも早かった.それが我が国では独特の感染経路,すなわち薬害エイズを出発点とした.感染経路の解明は行政,学会,薬品メーカーを巻き込んでいった.性行為感染症の問題として取り組むことに二の足を踏んだ.その結果,性行為感染症の予防対策が即エイズの予防対策になるという認識が希薄になった.最近の報告によると,いち早く対策に着手した欧米諸国ではエイズ感染者の数が減少傾向にあるという.それに比べると,我が国ではクラミジア感染症などと同様に上昇の一途を辿っている.何度も言うが,今,国策が必要なのだ.

ここに驚くべき数字がある.25-34歳の男性の買春率が18.6%という現実である.結婚適齢期から結婚初期の男性5人に1人が買春してるということだ.欧米の先進国が1-2%といわれているのに比較し,約10倍である.この差の意味は.そういう風潮の国,そういう事が許される国,そういうことを誰もとがめない国,そういうことに目くじらをたてない国,そういうことが平気な国.これがアジアで一番の経済大国で文化国家を自負してる国の実態なのである.買春が高率ということは,売春も高率ということになる.多くの結婚適齢期の男女が性的に不特定な関係にあるという状況は,極めて異常な国である.

わからないのは,買春に精を出す男性だけではない.それに呼応する女性の存在である.紳士淑女には失礼な話だが,需要があれば供給があり,供給かあるから需要もあるという経済の大原則がここにも存在しているのだ.戦前なら,家族や兄弟の経済的苦境を救済するためという大義名分も成り立ったであろうが,経済的環境が整った現在,自分の体を犠牲にしてまで報酬を得なければならない理由とは.

性器ヘルペスという性行為感染症がある.ウイルスにより感染し,そのウイルスは仙髄神経に潜伏しやすく,それが度々皮膚にでてきて再発を繰り返すという病気だ.7割が無症候性だが感染源にはなりうる.クラミジアと同様に厄介な感染症だ.これに感染すると当然のことながら抗体ができるのだが,風俗産業従事の女性の陽性率は78.6%なのである.約80%,ほぼ全員である.こんな高率な職業病が存在するだろうか.しかも,すこぶる短期間での罹患だ.この職業につけば,必ず罹患する疾患である.必ず罹患することがわかってて,それでも従事しなければならない大義名分,きっとあるにちがいない.ただ,どのような大義名分があるにせよ,世界に誇る売買春の担い手,ニッポンの若い男女は世界最大のエイズ発生源に育ちつつあるのも確かな話なのだ.

狂ってるのは若者だけではない.全世界に大使,公使を派遣し,世界中の文化人と折衝にあたる日本の顔,そう,外務省の役人さんたちも狂ってる.役人はうるさい,重箱の隅々までつっつく.伝票1枚,判子1つ,予算決算,監査に査察.で,なぜあんなことがバレないんだ.うまくやってんだろうな,みんなグルになって.でもバレたんだから,使ったお金は返してね,子供にもわかるように.で,ちゃんと仕事をしてください,エイズと性行為感染症の予防には役人さんの決断が必要なんだから.しかし,これが一番苦手なんだよね,あの人達には.

--------------以上の随筆は雑誌”ウロナーシング”に掲載したものです.

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