泌尿器科医って?
  


 

  

   20年前の大学卒業時に教科書が最も薄く、勉強する範囲が最も狭い分野ということで泌尿器科を専攻したわけ。なにせオシッコの通るみち(図の左)と精液の通るみち(図の右)にできる病気が相手。ところが昨今の高齢者社会に加えて生活の欧米化が進み、泌尿器科疾患も複雑になり、勉強しなくてはならない領域が大幅に増えた。腫瘍学、性感染症、男性不妊症、排尿コントロール、高齢者の性、尿路結石、腎不全等など

   泌尿器科医が専門職として世に登場したのは古代エジプトで、膀胱内の石を内視鏡により摘出する職人が最初といえる。以来、約3000年の間に診断治療技術はめざましく進歩した。最近の10年間はバイオ、ハイテク技術が駆使され、”考えもしなかった”ことが日々身近になってきている。

    レーザーによる結石の破壊は40インチのテレビ画面を見ながら行なう。尿道から入ったファイバーを通して約70グラムの超小型テレビカメラが膀胱内、尿管、腎臓内を順次映しだす。石をみつけるとレーザー光線が発射され、一瞬の閃光とともに結石は粉々になる。性能の良い小型テレビカメラから送られた体の中の映像が大画面のモニターに映しだされ、迫力満点のシーンが展開される。壊されずに残った小さな石はファイバーの先端からのびるマジックハンドがこれを体外につかみ出す。患者も看護婦さんもこの一部始終を見ているので治療する側も緊張する。結石が体外に取り出されたときは一同拍手となり、ビデオテープに収められた記録と取り出された石は患者さんの手元へ。まるでスピルバーグの映画”スターウオーズ”にあるような場面でだが、これが今の泌尿器科で日常のように行なわれている治療の一端である。


   体内の石を手を触れることなく破壊できる体外衝撃波破砕装置(ESWL)はおなじみ。この装置の本来の目的が潜水艦の爆破用であったことは余り知られていない。結石破砕に応用したドイツの泌尿器科医の発想の転換に脱帽する。1985年、アメリカの学会で報告された時、聴衆全員が質問に立ち上がった衝撃的デビューであった。一般臨床医の発案で世に出るまで10年の歳月を必要とした。

   癌の関連ではシスプラチナムの出現が革命的といえる化学療法の進歩をもたらした。とくに睾丸腫瘍はどんなに転移していても50%以上の治療効果が得られる。放射線との相性もよく、併用治療により膀胱癌の治療成績を向上させている。最近、バイオによる薬剤で白血球の減少や嘔吐がコントロール出きるようになりさらに有効性が高まった。膀胱癌に関してはBCGの膀胱内注入がトピックスである。この方法により膀胱を摘出する症例が半減した。これはアメリカの泌尿器科医のアイデアである。

   歴代の中国の皇帝が切望したインポテンツの治療薬もアメリカ登場した。残念ながら現段階では相方を喜ばせるだけにすぎないが、あと10年もすれば双方の望みがかなう。

   当院でも少しずつではあるが夢を追いつつ診療している。癌組織の染色体遺伝子診断、QOLに基づく在宅癌治療、癌転移マーカーの開発、ビデオシステムによる排尿障害の治療、インポテンツの診断と治療等々。いずれも各科のドクターや看護婦さん、保健婦さんの連係プレーに基づき、院内のみならず院外の研究施設を含めた共同研究が進行している。評価には最低5年が必要。今、まさに石の上にいる。


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