ひとり一言

医者,看護婦さん,患者さんなど
病院をとりまくヒトのほんの一言

(実名のヒトもいます。心当りのヒト,ごめんなさい)


97.3.15

*恵三さん,87才は膀胱癌。合併症が多くて治療できない。ガンと仲よくして天寿をまつしかない。1か月前に83才の奥さんを亡くした。診察室に入ると線香の臭いが立ちこめる。昨晩,どんな部屋でどのように休んだかよくわかる。

*美智子さん,35才,看護婦。看護婦さんたちは血圧や脈拍を測定すると手の甲にボールペンで書く。メモ用紙のかわりだ。『年をとったらシワに隠れて8が3になるよ』と言ったら笑いころげた。

*良明先生,30才,医師。老人ホームでいかにオムツのない生活が可能かを大学の研究会で講演した。担当教授に『君の研究はサイエンスじゃない』と酷評された。部屋にかえってがっかりしてると,教授から『焼き肉につきあえ』と誘われ,その席で『サイエンス』にする方法をおしえてもらい激励された。4年後,アメリカ泌尿器科学会で講演した。

*斉藤さん,38才,泌尿器科病棟の看護婦さん。勉強のため,手術室で我々のやる手術を最初から最後まで,すぐそばで見学していた。手術が終わって一言,『つまらないことをペラペラよくしゃべりますね,先生達は,手術中に。』

*豊造さん,72才,前立腺癌。穿いてる下着のトランクスがとてつもなくハデだ。『お孫さんが買ってくれたのか』と聞いた。『下着ぐらい自分で買う。ヒトが買ってくれるのは年寄りくさくていかん』と。

*茂さん,81才,前立腺ガン。いつも20才くらいののかわいいお孫さんが一緒についてくる。めんどうみもいい。自分が子供のときに面倒をみてくれたお返しだと,けなげなことを言った。ある日,診察していると『ジイチャン,きたないチンポがパンツからハミ出てるよ。』と言って,自分でつまんで押し込んだ。彼女の体の四分の一はそこから出たとはいうものの。

*正二氏,72才,膀胱癌。趣味,麻雀。白内障と診断されたらしい。以前,緑内症の治療を受けたことがある。『赤の字の入る目の病気はないかな。あればきっと自分はその病気になる。なにせこれで大三元だから。』

*きみサン,76才,慢性膀胱炎。尿道から内視鏡を膀胱に入れるのに,まちがえて腟に入れてしまった。彼女が先に気づいて曰く,『先生,そこは最近使ってません。』

*正明氏,32才,新婚性インポテンツ。やっとのことで母一人,子一人のところにヨメがきた。フカフカのベッドを新婚生活用に購入し,2階の部屋でハネムーンを始めたが夫婦生活がうまくゆかない。外来での助言は『独身時代のフトン生活にもどりなさい』。街で手をつないで買い物する二人をみかけて一安心した。フカフカのベッドじゃ女性の腰の角度が変わる。なにより,ベッドのキシむ音が階下にきこえる。

*杉山先生,30才,産婦人科。ソフトボールとバレーボールの定期戦を泌尿器科病棟と産婦人科病棟で企画した。定期戦の名前は病院の近くにあった有名なマンジュウの名前からとって『キンマン定期戦』とした。

*秋山先生,26才,産婦人科。大晦日の当直を紅白歌合戦をみながらチビチビやってた。突然,秋山先生,泥酔で当直室にきて言うには『結婚するはめになったよ,失敗した。彼女,妊娠してな。プロ同士でもこうだから素人に叱れないよな。』ちなみに,彼女は助産婦さん。


97.4.5

*恭子さん,22才,看護婦さん.看護学校を卒業したばかりの新人.今までの看護婦さんには『先生』と呼ばれていた.彼女らの学年の看護婦さんからは『せんせい』と,変な抑揚で呼ばれるようになった.2,3カ月の後,森昌子の歌謡曲が大ヒットしてその原因がわかった.

*桑原先生,28才,泌尿器科.ドイツ留学帰りのハンサム医師.看護学生から匿名のお昼の弁当が届いた.『おまえ変わりに食べろ,批評も紙に書いて入れておけ.』ジャンジャン食べて,ジャンジャン批評を書いた.弁当の内容は次第にエスカレートした.思わぬことに,試験の採点から事情がバレて弁当は届かなくなった.桑原先生は稀に見る悪筆だったのだ.

*熊谷先生,29才,泌尿器科.週刊誌片手に『これに看護婦寮がのぞけるビアガーデンと匿名で載ってるが,ホテルHの屋上ビアガーデンのことじゃないか』.病棟の看護婦さん達とアフターファイブにその場所に繰り出した.確かに,ビアガーデンの席から寮の部屋の中が手に取るように見えた.20年前の話.

*りんたろう君,5才,陰嚢水腫。母親に言った。『まさか,兄は竜馬では?』。母親,こたえて曰く,『おとうさんが遠慮して遼太にしました。でも先生は良くわかりましたね,この子の名前が勝海舟の幼名だってことが。始めてです,おとうさん喜びます。』こどもの診察もほどほどに,大喜びで帰っていった。

*清治さん,87才,進行前立腺癌。高校の担任だった英語の先生にそっくり。超耳が遠く,補聴器をいじくるのが癖で,診察中にピーピーガーガー電子音がやかましい。診察室を出ると,必ずもういちど戻ってきて尋ねる。『先生,わし,癌じゃないよね』。5年間,毎月欠かさず。

*隆二さん,42才,独身,交通事故により脊椎に損傷。昼,夜かまわず尿がもれるとの訴え。8年間辛抱したが,思いあまって泌尿器科受診。自己導尿による排尿法を指導して1か月後。『病院に来てよかった,毎日の洗濯が週一回になった。何よりも,県外までドライブできる。』

*啓二さん,89才,前立腺癌。最近は老人保養センターのデイサービスに通っている。『車が迎えにきてくれて,温泉に入れて,将棋ができて,一日中遊べる。国はいいものを作ってくれる』。いいことばっかしじゃない,と聞くと。『いかんです,年寄りばっかりで。』

*みさえさん,74才,女性,頻尿。夢千代日記で有名な温泉町からきた。オシッコが近くて疲れるという。聞けば,便所が庭のはずれにあるとのこと。『村の下水工事が始まるまで新しい便所を家のなかに作れない。むこ取りで,無理も言えない。』


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