特定調停 〜新たな債務整理の方法〜
特定調停とは・・・
正式名称は、「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」(平成11年法律第158号)というものです。これは、従来の民事調停法の特別法として制定された法律で、平成12年2月17日に施行された新しい法律です。
本法律の趣旨は、経済的に破綻する虞のある債務者(特定債務者)経済的再生に資するため、民事調停法の特例として特定調停の手続を定めることにより、特定債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整(特定債務等の調整)を促進しようとするものです。
特定調停の申立権者
本法における「特定債務者」とは、金銭債務を負っている者であって、次のいずれかに当たるものをいいます(第2条第1項)。
@支払不能に陥るおそれのある個人又は法人
Aその事業の継続に支障をきたすことなく弁済期にある債務を
弁済することが困難である事業者(個人又は法人)
B債務超過に陥るおそれのある法人
となっています。
従来の民事調停手続による債務弁済協定調停との違い
従来の民事調停手続による債務弁済協定調停とは、債権者と債務者とが、調停手続を利用し、債務を利息制限法によって計算し直して確定し、長期の分割払い等による弁済の合意をするというものです。
自己破産すると、持家等がある場合これらを売却して債権者に分配する手続を取ります。債務弁済協定調停は、どうしても持ち家を手放したくなく、債務を利息制限法に基づき引き直すと返済が可能な場合に利用するのですが、裁判所・調停委員により対応がまちまちで、特に強制執行の停止や債権者である貸金業者から関係書類を提出させる事は難しかったのです。
特定調停では、この点を強化し、
@当事者の申立により、特定調停の成立を不能若しくは著しく困難にするおそれのある時、又は、特定調停の円滑な進行を妨げるおそれがある時は、民事執行手続の停止を命じることができる(第7条第1項)。但し、給料債権等に基づく民事執行手続は除かれています(同条同項但書)。
A特定調停においては、当事者は、調停委員会に対し、債権又は債務の発生原因及び内容、弁済等による債権又は債務の内容の変更及び担保関係の変更等に関する事実を明らかにすることが求められています(第10条)。
B調停委員会は、特定調停のために特に必要があると認める時は、当事者等に対し、事件に関係のある文書又は物件の提出を求める事ができることになりました(第12条)。この実効性を確保するため正当な事由なくしてこれに応じないものには、10万円以下の過料を課すことになっています(第24条)。
C上記@〜Bのほか、特定調停における職権探知主義(職権で、事実の調査及び必要であると認める証拠調べをすること)の原則を明文で規定(第13条)しているほか、調停委員会が必要に応じて官庁、公署その他適当であると認めるものに対して意見を求めることができるようにしたり(第14条)、調停条項案の書面による受諾(第16条)の創設
など、特定調停を実行あらしめる規定を設けている。
特定調停と従来の民事調停手続による債務弁済協定調停との対比
特 定 調 停 | 従来の民事調停手続による 債務弁済協定調停 |
|
申 立 て | ・経済的に破綻するおそれのある個人・ 法人 ・申立に際し、財産状況を示す明細書、 債権者・担保権者の一覧表等の提出 が必要。 |
・ほとんどがサラ金・クレジット等の多重 債務者 ・実務上、申立に際し調査表への記載 (財産状況、債務の発生、弁済状況等) が求められる。 |
民事施行手続 の停止 |
・法律上明記 ・要件を緩和(調停の円滑な進行を妨げ る場合も停止可能) ・無担保での停止も可能 ・裁判所が作成した債務名義(判決等) に基づく強制執行も停止の対象として いる。 |
・規則に規定あり(民事執行規則第6条) ・調停の成立を不能・著しく困難にするお それがある場合に限られる。 ・常に担保が必要。 ・裁判所が作成した債務名義(判決等)に 基づく強制執行は対象外としている。 |
民事調停委員 の指定 |
・事案に応じて、必要な専門知識経験 (法律・税務・金融・企業の財務・資産 の評価)をするものを指定する旨を明 記した。 |
・規定無し。 ・実務上適宜配慮。 |
当事者の責務 | ・当事者双方に債権債務の存否、額等 に関する事実を明かにする義務がある 事を明記した。 |
・規定無し。 |
文書等の提出 | ・正当な事由のない不提出者に対して は過料の制裁がある。 |
・不提出者に制裁なし。 |
職権調査 | ・法律上明記した。 | ・規則には規定がある(民事執行規則第 12条)。 |
調停の内容 | ・債務者の経済的再生に資するとの観 点から、公正かつ妥当で経済的合理 性を有するものであることが必要。 |
・相当なものであれば足りる。 |
書面による調停 条項案の受諾の 制度 |
・有り。 | ・無し。 |
調停委員会が調 停条項を定める 制度 |
・有り。 | ・無し。 |