訪問販売と契約 (高知県司法書士会会員)
![]()
昭和60年5月29日、私の事務所に婦人が深刻な表情で「相談したいことがあるんですが・・・」といって入ってこられました。私は、これまでの経験から、このような場合まず相談者である婦人の話を充分に聴き、その後でこちらから必要なことを聞き取りしなければならない、と思いながら、婦人の気持ちを少しでも安心させようと「どうぞ、お掛け下さい。どのようなことでしょうか。」といって婦人の話を聴き始めました。
婦人の話は、「5月24日にセールスが来て、この塔があれば家庭内の悩み事などが解消されるなど言葉巧みに勧誘され、高額ではあるが契約して代金の一部1000万円を支払いました。残金1000万円の支払いがこの月の末迄になっています。残金の1000万円は支払わなければならないでしょうか。やめることはできないでしょうか。支払わなければならないとすれば、土地建物を処分しなければとても用意できません。主人に内緒で買ってしまったし、何とかならないでしょうか。」との事でした。
私は、婦人が契約を解除したいという事を確認した上で、売買契約、その代金の支払い義務について説明した後、訪問販売等に関する法律、とくにクーリングオフの制度があって契約を解除することが可能な場合があると事、ただし、実際には悪質な業者があってなかなかうまく行かないことがある事などを説明し、これだけ高額な契約の場合は通常契約書を交わしているはずなので、まず契約書をん持ってくるよう指示しました。
約1時間後、婦人が契約書を持ってきました。早速契約書を見てみますと、契約日は5月24日。売買代金は2200万円で、すでに、1102万円は支払われている。残金990万円で支払期限は5月末。その次にありました。(おしらせ)とある中にクーリングオフのことが明記されていました。婦人に、先ほど説明したクーリングオフというのはこの事であり、契約の解除ができます。残金は支払わなくていいですよ。すでに支払った1102万円も返してもらえます、と説明しました。
早速に内容証明郵便で契約解除の通知を出し、婦人には、契約の相手が良心的であれば1102万円はすぐ返ってきます。ただ、悪質な業者の場合はいろいろ言ってくるかもしれないのでそのときはすぐに私電話するように。決して残金を支払ってはいけませんよ、といっておきました。
その後、私は、悪質な業者を想定して、契約書に記載された会社の登記簿を請求したところ会社が登記されていません。これはどうもよくないと思いました。そのうち婦人が相談にくるだろうと待ち構えていました。ところが約2週間後の6月13日、婦人から「全額返ってきました。有り難うございました。」と電話がありました。
この場合、よい条件が揃っていたことがこのような結果に結びつきました。まず、第一に婦人が早く相談にこられたこと。そのためにクーリングオフが期限内にできたこと。第二に相手方が良心的であったこと。そのために簡単に全額の返還がありました。
![]()