サラ金から訴状が・・・  (愛知県司法書士会会員)

 ある日の午後、私の事務所に電話がありました。電話の声は、若い男です。
 「先生、ちょっと相談したいことがあるんですが、よろしいですか。」
 「今、電話では言いにくいことですので、そちらに伺ってからお話したいと思いますが。」
 「そうですか。結構です。何時ごろこられますか。」
 「昼間は仕事をしていますので、仕事が終わる夕方の5時30分頃でもよいでしょうか。」
 「いいですよ。お待ちしています。」

 こんな電話のやり取りの後、私は何の相談だろうと思いをめぐらしていました。

 約束の時間に彼は来ました。「今日はすみませんでした。会社から電話をしていましたので、詳しいお話ができませんでした。」と謝りながら、持ってきた封筒を差し出しました。それは30万円の支払いを求めるサラ金からの貸金請求の訴状でした。

 彼の話を総合すると、要するにこのサラ金の店に行ったことも、ましてやお金を借りたことは一度もないとのことです。相手方であるサラ金からは、本人が借り入れをしたときに持参したとする健康保険証の写しも証拠書類として提出されていましたが、保険証に記載されていた会社には勤務したことがないとの話です。

 私は、本当にお金を借りていないのなら、裁判に勝つ可能性が大であるとの話をしました。次に残された問題は、本人が裁判をするか、弁護士を立てて裁判をするかということです。彼は、自分で裁判所に行って、真実を訴えたいと望みましたので、本人の意思を尊重し、又、私も事案からいっても本人訴訟で充分対応できると判断し、本人訴訟で裁判を闘うべく決定しました。そこで、サラ金の請求を棄却することを求める答弁書を作成し、彼に裁判所へ提出するよう指示しました。

 その後、裁判は口頭弁論が数回開かれました。裁判の期日が決まるたびに、彼と裁判所での対応や、サラ金側が証人として呼び出した元従業員への反対尋問の打ち合わせをしながら、裁判を続けました。

 そして、判決の日がやってきました。判決の日、彼から、「先生、勝ちました。」との電話が入りました。私も正直言ってほっとしました。数日後、裁判所から届いた判決書を彼は持参しました。判決書には、「原告の請求を棄却する。サラ金側の証人の証言について裁判所は認めない・・・。」との記載もあります。私は、「判決が出ても2週間以内なら控訴ができるから、サラ金から控訴されたときは連絡してください。」と指示を与えましたが、その後、彼から控訴されたとの連絡はなく、この判決は確定しました。