転換迫られる「たばこ政策」
 たばこ規制枠組み条約が世界保健機関(WHO)の総会で採択された。各国は連帯して、たばこ消費を減らしていく「脱たばこ」へ大きな曲がり角を過ぎた。公衆衛生での初の多国間条約として画期的な意味を持つ。

 たばこは健康への被害がはっきりしながら、広く普及してきた。単一の商品として健康被害が圧倒的に大きいが、近代国家はその税収に長く依存してきた。これほど矛盾に満ちた商品も珍しい。

 たばこに起因するがんや脳疾患、心臓病などの疾病による死者は年間、世界中で約500万人、日本だけで約10万人と推定されている。

日米独、規制に抵抗
 多くの研究でたばこの被害が分かった1970年代から、欧米を中心に規制が進み、がん死亡率低下など目に見える成果につながった。しかし、たばこ会社が途上国へ輸出を増やせば、全体の健康被害は減らない。規制を国際的に促す多国間条約は時代の要請である。

 3年間の交渉で、世界的たばこ会社を抱える日本、米国、ドイツは厳しい規制に反対した。その結果、条約は、各国の裁量に委ねる「努力規定」が目立った。全会一致の採決だったが、規制推進派とたばこ産業養護派の妥協の産物である。
 
 しかし、条約の意義は十分に残った。たばこ消費削減を目的に揚げて、広告の禁止か規制強化、包装表面の30%以上に被害の警告表示をするよう定めた。たばこ規制を推進する機関の設置を各国に求めたのも重要だ。どれも日本に政策の根本改革を迫る条項ばかりだ。

 政府は現行の法律に手を付けないで批准する方針だが、この姿勢で済むのだろうか。日本の対策の基本は、たばこ事業の健全な発展を目指すたばこ事業法にある。財務省が所管、監督しており、厚生労働省は積極的にかかわっていない。
 
 この体制を構造改革するしかない。人々の健康を守るためのたばこ政策の転換は、条約上の義務である。政府はすぐ、たばこ規制推進大網の策定に着手すべきだろう。
 
 日本のたばこ対策は欧米諸国に比べて30年遅れている。5月1日から施行された健康増進法では公共の場での受動喫煙防止法が組み込まれ、わずかな前進は見られたが、公衆衛生面からもっと強力な対策と体制が必要だ。広告規制や警告表示拡充などに、本格的に取り組むべき時である。

 また、たばこ自動販売機は全国に約63万台も設置され、違法な未成年者喫煙の温床になっている。これほど津々浦々にたばこ自販機が並ぶ国は世界にない。自販機の規制も急務である。

来年にも条約発効

 たばこ消費削減に最も効くのは増税とされている。価格が高くなれば消費は減っていく。日本は欧米諸国より、たばこ価格が格段に安い。条約がたばこ増税を奨励しているのに注目したい。たばこ税は7月から1本あたり0.82円増税されるが、健康を守るために、思い切った長期的は増税案を検討してもよい。
 喫煙率は低下したが、また成人男性の半数近くがたばこを吸っている。生産農家や販売店も多い。

 社会全体がたばこにどっぷり漬かってきた。脱たばこは、情報を開示して広く議論しながら進めたい。たばこを吸わない人と吸う人の対立の図式にしてはいけない。

 増税を伴う税収増は健康対策とたばこ関連業者の転業支援に充てればよい。喫煙者も3人に2人は禁煙を望んでいる。人々の健康を害しながら大衆課税で税収を得るのは矛盾だ。

 この条約は40カ国以上が批准してから90日後に発効する。来年にも発効、たばこ規制の仕組みがWHOで動き出す。

 国際的に単独行動が多い米国の対応が懸念されるが、新型肺炎(SARS)対策も含め公衆衛生では国際協調を優先すべきだ。政府には条約批准と国内対策の転換を同時に進めるよう求めたい。

 
日本海新聞 平成15年5月23日 社説より


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