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最終更新日2012/05/18

山元 寛司

1985年10月1日生まれ。鹿児島市在住。鹿児島修学館高校2年。中学1年から短歌を 始める。2002年10月第1歌集『15歳』発行。 

          

手 術(70号)

宝くじ外れ普通はありえないそんな病が当たってしまう

冷蔵庫、電話にテレビ・冷房も 入院するならやっぱり個室

三つ目の非常に設備よしきっと値段も高いだろう

病院の窓に広がる風景が墓地というのは少し不吉だ

まどろみも抜けて気づくは腹痛とおなかに残るオペの傷痕

首筋に右手に鼻腔(はな)に膀胱に背にも入れられ管人人間

鼻腔(はな)に管入れてるから喋れないのにいろいろ聞く看護士さん

お医者さん回診の時うれしげに話す死ぬほど苦しく僕に

三日間鼻腔(はな)から管を入れてたらがんばれなんて言えなくなるよ

鼻腔(はな)の管取れてやっとで冷静に ひどく短気になっていた僕

看護士が「痩せたね」と言い喜ぶがそれより何よりお腹が減った

首の管鏡でじっと見てみると縫い付けられてギョっと驚く

絶食の一週間後に口にした薄い食事も辛く感じる

一杯の味噌汁そしておも湯だが半分さえもなかなか食えぬ

愁然の顔で誰かを見舞う人 人の数だけ生活がある

入院時急に電話をくれた友 言えなかったがうれしかった

見舞いなど来なくていいやと言っても誰かが来るとすごくうれしい

お見舞いでもらった花が室内を優しい香りで包んでくれる

病院にそっと漂う花の香りが見舞いの人の優しさ示す

墓に朝置かれた花がうなだれる雨降りしきる日の昼下がり

野良猫(69号)

寝静まる住宅街の暗闇に足音一つが異様に響く

生きるため他人を喰らうその様はとても切なくなぜか凛々しく

痩せこけて険のある目の野良猫が遮二無二喰らう首の無い蛇

曲名を思い出そうと鼻歌を何十分も唄い続ける

友人に彼女が出来たお祝いの電話で聞くのは別れた話

「メンズディ」男と女は同権と言うならばなぜ作らないのか

「ご主人のマナーが悪くてすみません」赤面している路上の煙草

アクビしてチラリと僕を見た後に目蓋を閉じて眠る野良猫

寝付けずに寝ようと焦れば焦るほど時計が進み眠りを削る

髪型を六年ぶりにかえてみたボウズ頭に夜風がしみる

夏草の味(68号)

四時半に目覚め起きるかまた寝るか悩み気づけば寝坊している

草叢にゴロリと転がり息すれば胸に広がる夏草の味

吹き出したホースの水は虹を生む君と小さな花の間に

溶け出したバニラアイスを少年はシャツと一緒に笑顔で食べる

七時半朝の光が眩しくて開けた目蓋を再び閉じる

学校の机に目の絵を描いていたら誰かが続きの絵を描いている

若者の目の絵を書いたつもりだが顔は中年体はマッチョ

絵を消して数日過ぎて気がつけば誰が書いたか「何で消すんだ」

安売りのお菓子を見付けそれほどに欲しくもないがとりあえず買う

「起きなさい」聞こえるたびに眠くなるひねくれている僕の性格

夕 空(67号)

散歩道なぜだか胸が高鳴ったいつもと違う道を行こうか

ひらひらと舞い散る木の葉を思わせる蝶の生命は土に還って

草むらをカサリカサリと歩く音が夜の静寂をより深くする

くるくると過去へ向かい動き出すカセットテープの懐かしい歌

気紛れな空に騙され全身がずぶ濡れになり店に入れず

美しく響く夜虫の歌声も湿気のせいで重く沈んで

気がつけば広がり始める夜の闇本から顔を上げ明かりをつける

大声をあげて道行く幼い子僕にもあんな日があったのか

なぜだろう君に会えない寂しさは紛れはしても消えなどしない

無機質に響く時計の針の音が二人の時間に終わりを告げる

五分後に試験が終わるときになり解答用紙の白さに気づく

人間は忘れて生きる生き物だ二分前に見た公式さえも

山の上突き出た煙突一本が夕べの空に影を作って

Tシャツと下着いっちょのおじさんが立ち読みをする夜のコンビニ

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