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最終更新日2012/05/18

山崎 真治

1958年3月10日八王子市生まれ。

都立冨士森高校(玉城徹氏元勤務校)、高千穂商科大学(現高千穂大)商学部商学科(当時の学長関根文之助氏)卒。  会社員。歌集『明日をかかえて』『祈りかかえて』『21世紀への伝言』

星を見つめて(角川年鑑23から転載)

終電車を待つホームに浮かぶ白い息 初老の男は星を見つめて

とどかぬ白い思い 見上げる星明りに終電車を知らせるアナウンスが響く

コートの襟を掌につつみかかえこむ頬 電車の刻むリズムがゆるゆる近づく

扉が開きさだまらぬ視線で湧きでる群 無言のままに

乗り込む車内 溜息にさそわれて眠りに落ちてゆく深く闇の奥

愛をこめて(角川年鑑22から転載)

咽奥にしみ通る酒 トランペットの高音にグラスの氷が揺れる

ソプラノの歌声に視界が狭まっていきグラスの氷が乾いた音をたてる

燻らすタバコの魔法にかかり部屋を巡る子供姿の私

高鳴る鼓動 グラスの氷がにぶい音をたて苦い思いがしみ込んでくる

酔いを求めているわけではない 流し込むウイスキに愛を込めて

枯れた流れ(72号)

鈍色の風に揺らぐ落葉を集めて老人は無言の時を過ごす

錆の色に同化していく落葉カラカラと掻く老人の皺

耳朶にふきかかる冬 公園の夜明けは傀儡の落葉掻き

ときおり天を仰いで口唇をふるわせる老人 大振りに葉が落ちる

呪詛を操つるか緩りと流れる老人 時を止めて自らも風景に溶ける

一人、二人と現れては同じ動きで溶けていく影 音も消えた

言葉も交わさず揺れ動く老人たち 群とは成さず枯れている

乾いて集められる落葉 無言に掻く老いた男女 枯れていく

明らむ刻を待つこともなく消えてゆく影たち寒風が一すじ公園を抜ける

憑きものが晴れ明るんでくる公園に残されたひとかたまりの落葉

掻き集められて吹き散る刻 ザワザワと風に哭く枯れた大葉

まだらな錆模様を背負って寒風になく大葉の枯れ音を引きずって舞う

碧色のファンタジー(71号)

青い匂いに背を押され走る草叢 君の笑顔と息づかいが揺れる

ひろげた掌に届きそうな輝く瞳 少し遅れて追いかけてくる

上目づかいに立ち止まる無言の黒髪に風が吹き抜ける くすぐる匂いが漂う

無言の君を引き寄せ無言を重ねる草原 鼓動のたかなりにが丘に届くか

ふりきるように走りだす僕を追いかけてくる掌 草の匂いがよみがえる

笑い声が重なって揺れる草原 ふり返り走るすぐそこに唇が届きそうだ

わずかに動いた唇 草原に消えた言葉を風がさらっていった

腕の前にあわせた掌に思いをこめてうつむく黒髪に女が薫る

走り寄る君の笑顔 白日夢のようにスローテンポで風を揺らす

荒れた息づかいのまま見つめる君との間を青い思いが行き来して凪ぐ草叢

細かく動く君の瞳に写るのは高鳴る鼓動か 青い青い風が吹きぬけた

揺らぐ瞳に見つめられて過ぎてゆく無言の刻 碧くかすれゆく草原

心の会話(70号)

寝返りを打つネコのまどろみが温みを伝えあぐらの痺れに滲む

うたた寝からさめ黒ネコの息つかいを聴く 君はまだ過去から戻れないのか

互いに重なる想いか ネコをかかえて燗を煽る静かな夜

ひとこえ鳴いて現世に戻ってきたクロ 暗示のように動く口許

こころでしか伝わらない会話に温もる夜長 細々としてネコの寝息

シロもクロも前世からの繋がり 私は鎧の武者かナイトか

伝える想いが伝わる鳴き声にかわり酔いがまわる 重ねた酒とともに

横になった躰に添いながく毛繕いの揺れが眠りに誘う

心はパズルのように繋がって夜をつくる ネコのピースは私に眠る

クロの鳴きごえに癒されて煽る酒 重さと温もりが揺れ上がってくる

酔いを言い訳に夜中に戯れる四十男の背の丸み……哀しいというクロ

差し出した掌を甘咬みをするクロよ両手で拝む姿は何を伝えるのか

歪んだ美学(69号)

黒いフレームのめがねは額にシワを寄せて数字を追いかけるビジネス 今しか見えません

縁の白いめがねは軽い方です なんでも真っ直ぐに見えるのは未来を追いかけているから

遠近両用の魔法に膨らむ階段を伝い歩き足もとにゆがんだ私を探している

乱視と診断されても歪んではいない想い 魔法に侵されて慣れていく

事実が膨らんで見えるから詩的選択の眼球は要らなくなった

拡大されて強調されて見えてくるれんずに酔って重くなっていく眼球

矯正されて飛び込んでくる寝顔 強制された思いを重く引きずって――朝

見えているのにうまく書けないのはレンズの歪み 魔法にかけられている私

見えている広さ大きさに手足がついていけないもしかして狭くなっていないか地球

近距離用遠距離用に分けられたレンズ 愛が哀に変わってつながる表情

はずしておいたほうがいいかもしれないボーっとしたフォーカスできみをみている

白桃のようなうぶ毛まで飛び込んでくる矯正の”正”で歪んだ美学のきみとぼく

ミーハーのボクは40代で乱視老眼になりました言霊も歪んで響くらしい

まどろみ(68号)

散り急ぐ桜の花びらは湿った黒土を埋めつくし地上に満開の霞をたたす

吹っ切れない感情を背負って散る桜 過ぎ去ったことは懐かしむことはない

散っていく花びらの行方を追って1つ2つ3つ……黄泉に引っ張られていく

ここは音のない白ばかりの空間 満開の桜の霞みに陥ちていく

白からうす桃色の世界にゆっくりとかわる君の片想いが桜の園に戻したのか

手招きしてここに戻してくれた君よ どこで見ているのか宙を舞う花びら

包まれて花の中にいる<眠りなさい>という声を残して散っていく一片

満開の花の群れにいて微笑を捜す 心音の高鳴りが聴こえますか

昏れ時は俄かにひえびえとして桜の根かたに倚る一羽の雉

消えた雉を追って桜の園を踏みだすと雑木林の日溜り 目をつむる

振り返ればさわさわと花びらを散らす桜の樹 私は花冷えに震う

つめたいまち(67号)

木造の家の並ぶまち 冷たい風がカサカサ音をたてて吹き抜ける

まるで無人のまち 垣根の木の葉が風に揺れ音が凍てる

黒ずんだ軒さきに隠れた蕾が覗く 赤い花には白い花が添うて咲くという

バス停に杖をついたまま立つ老人は動かないがときどき白い息が漏れる

降り立つまちの交差点 黒い目をした犬と向き合う

四つ角を曲がったブロック塀であくびする猫との出会い

ヒューヒュー風が飛んでいく 耳の痛さを手の平で囲う

こげ茶と黄に染まるまち 落葉がからむ 赤いマフラーで顔を隠す

追いはらっても追いはらってもどこまでもついてくる白い犬

もうお帰えり うちでは飼えないよ 霧の深いまち明けきらない朝

青白い朝に背を向けて歩きだした子犬 トボトボと遠くなっていく白

魔法にかかった朝が明けていく 霧に滲んで白い姿がつづく

オンザロック(66号)

ウイスキーの香が6畳をめぐりやがて幽かに透けていくオンザロック

とぎれとぎれのピアノの調べ 遠くで氷の戯れる乾いた音

歌声が揺れグラスを伝い降りる雫が口唇に触れる あたたかい苦み

頬杖を支える指先 落ちたタバコの灰の長さがまとう哀しいピアノの音色

口唇にしみこんでくるウイスキーの苦み 涙と混じる音色とは

涙とともに流し込むウイスキー 揺れながら愛と恋とに理由をつけて

香りに誘われて熱く酔っていく ハイトーンの叫び声が身体を駆け巡る

絞りでてくるタバコの香、ウイスキーの香 目がかすむのは酔いではない

伝っては乾く繰り返し 涙のわけはウイスキーの熱さとピアノの音色

ひとりだから頼っているオンザロック 酔いを巡らせる装いの調べ

なんでもよかった 求めて耳にする曲 酔うには広すぎる六畳

ポップ・ロック・ジャズ 想いを託す部屋にいつもウイスキーと愛と

理由もなく求める子どもの頃からの癖 愛とメロディーとウイスキーと

タバコの煙が目にしむほどの酔い アルバムのラストナンバー“虹色の想い”

迷い道(65号)

迷い迷い走り行き止まる 溜め息にまじり流れるボサノバの刻

時間限界 想いは外したシートベルトとともに投げやって曇天の夕暮

降りはじめた雨 シートベルトをかけ直す スターターになく

ラジオの曲で雨音を消し国道を迷走する 佇む赤い傘が目に入る

通り過ぎていった赤い傘 バックミラーに追って苦笑の湧く空間

そそのかされたようにアクセルを踏む ホホエミを浮かべた……何のため

理由もなく踏み込むアクセル 覚えのない憤りが顔をあつくする

思い直してゆるめるアクセル ゆるやかなリズムが車内に戻る

かりたてたのは何だったのか 明るみの戻った雨の国道246号線

迷いたくて迷ったようなもの 自動車の座席に赤い傘の滴がのこる

原因不明のまま 車から降りて青山三丁目の人ごみに赤い傘を探す

真直ぐ帰ろう 暮れかけた街にスターターキーを回す

エンジン発信音にいいわけを指折り数える 毎日の想いを閉じ込めて

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