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最終更新日2012/05/18

阿野田一平                     1974年8月30日四日市市生まれ。亡き父が浅野の小学校教員時代の教え子。四日市南高校卒。椛蛹囎l松出張所勤務。

俺も真似して(70号)

ビルの中に風を閉じ込めて来た俺だけの午後 日曜日

沖をゆく台風の余波 砂の温みを尻から伝えて俺は吼える

父島の南あたりを北上中 秋台風のゆくえどうなる?

めずらしく砂丘にひとり転がれば忘れていたる日曜の午後

指折って数えてみても遠くなる20歳(はたち)の俺を攫ったヤツよ

もみ消しの「く」の字もなくて働くよ20歳代(にじゅうだい)が近く終るか

飛び立ちし羽音を砂丘に残したる鳥見送って立ちつくすのみ

空っぽのコーヒー缶を岸壁に並べて俺の青春終る

青春よと海に向かって叫ぶとき波はますます遠く鳴るなり

精一杯生きてきたから青春とは働くことと俺は語ろう

台 風(69号)

夜に入ると波が高くなる 闇の中に立ち上がるうねりが猛りはじめる

分厚い壁のように寄せてくる波 黄土色に変わるのは台風接近の前触れ

唸りのような響きを押し広げて波は迫る崩れても崩れても後から迫る

昨日潜った海が荒れ狂う 近寄ってきて一緒に泳いだ魚のゆくへは

穏やかな日は細かい砂利の渚を走る蟹 はさみの赤が天に眩しい

今日は朝からあらわれない蟹たち 渚打つ波の音がどどっと響く

どどど、どどどッ 夜ぴいてひびく轟き 慣れたようでも眠れない

幾度となく寝返りを打ちながら白みはじめた窓を見る 風に鳴る

轟々と寄せ轟々と返る波の壁 黝んだままで夜が明ける

夜も朝も境目のない海 轟々と音だけを響かせて台風今どの辺り?

岩礁に立つ(68号)

2月14日生まれ 聖バレンタインに重なっても生臭く生きる化けもの

3月10日は誰の誕生日? ネコ科人間と言われながら白い猫を飼う

4月10日生まれのハムスター この秋『くたばれオレンジジュース』刊行

散りばめた不安を輝やかせて翔べ! 成人式を終えて風にま向かう

ギターを弾き詩(うた)を唄って伝えてくる 風に飛ぶこともなく電流は届く

運河の水は冷たいか橋を渡ってくる風は寒いかヴェネツイァに住む5月10日生まれ

金曜日ならまさに悪魔の申し子 イヌにもネコにもなれない6月13日生まれの男

7月?8月? 就職が心配といいながらバイトに忙しい大学生の誕生日は?

歌集『15歳』の少年は10月1日生まれ 馬上ゆたかに田原坂を越えるのか

石垣島の夕日を背に岩礁に立つ少年 眉濃く潮を弾き飛ばす

ネコもイヌもたった4文字の記号で構成された生命体 同じレベルか

人の形をしている偶然 70%の奇跡と30%の可能性に生きるという事実

☆66号山崎作品の感想

「倚子」66号での山崎真治「オンザロック」14首を読む。まず気になる、というより気に入らないのは、1首目、11首目に「六畳」と言ういい方が出てくることである。なぜ六畳なのか――それは山崎さんの部屋が6畳だから、なのであって、たとえそうであっても、せめて「フロア」というぐらいの見立てがあってもいいと思う。

・ウイスキーの香りが六畳をかけめぐりやがて幽かに透けていくオンザロック

・ウイスキーの香りがフロアをかけめぐりやがて幽かに透けていくオンザロック

と並べてみると、その差がはっきりする。

4首目、「頬杖を支える指先 落ちたタバコの灰の長さがまとう哀しいピアノの音色」「ピアノの音色」はわからないではないが、この場合は必要なく、「まとう哀しみ」でいいはず。これくらいの単純化は必要だろう。

・香りに誘われて熱く酔っていく ハイトーンの叫び声が身体を駆け巡る

・伝っては乾く繰り返し 涙のわけはウイスキーの熱さとピアノの音色

7首目と9首目とは14首中で最もわかりやすい出来栄えだと思う。

ジイさん(浅野)は「とぎれとぎれのピアノの調べ 遠くで氷の戯れる乾いた音」がいい出来栄えだと褒めていた――とつけ加えておこう。

高校生の頁では高橋朋宏(高1)の6首がよかった。これだけ揃って佳作と思えるのはいいセンいっていると思う。

・何回も言っているのに信じてない本当は僕は双子の兄貴

だからどうなんだ――と言われそうだが、それ以前に面白い。

コマーシャル(67号)

今年のメーンは「舘山寺温泉」という秋の湖畔にも温泉街にも幟りはためく

舘山寺温泉のシンボルは「舘山寺」山頂に12mの聖観音、曹洞宗の名刹

弘法大師の開山 別名、縁結び寺といういい方が俺は好き

見渡す限り花・花・花 園内は2300種が咲き誇りフラワーパーク日本一という

隣接の動物園は広々とした台地 こすもす畠の触れ合い広場がいい

大草山より湖上を渡るロープウェイ 一葉の絵葉書のような風景との出会い

ロープウェイとパルパル遊園地 いまだ探検していない未踏の大地

鰻とならんでスッポンの養殖も盛ん まだ食べたことのない美味しさか

ジイさんに喰わしたい特産のスッポン料理といいながら俺の本音は隠しておく

コマーシャルにもタンカにもなり損ねた俺の不様さ――死ねッ

先回りして待ち伏せていた冬の寒さ 転ろがってもいかぬ机の上のボールペン

冷え込む夜は温泉と熱燗徳利 俺にはさらさら縁のないコマーシャル 

海にて(66号)

    立ち上がる波の後を追って立ち上がる波 押し寄せてくるぶ厚い鉄扉
    ゆっくりと寄せる波の後を押すように寄せる波 重厚な鉄扉のうねり
    二つの波が重なって一枚の鉄扉ようにぐいぐいと海を押してくる
    重なって厚みを増した波が鉄ののべ板のように延びて追ってくる
    音を消しぐいぐいと寄せる波の無気味な移動 くろぐろと続く
    風すら通さないぞ――と立ち塞がるように列なって押し寄せる波
    ひとところに洞が生まれ一瞬に崩れていく波 くろぐろと渦を広げて
    波の崩れたあとにわかに迫る黄昏 雲の裂け目から一筋流れる光
    最後の力を振りしぼって波を呑み込んで一筋の光の痛み
    雲の裂け目はギラギラハート 波を吸い光を呑んだのは――雲
    黄昏はギラギラと汗を垂らして太陽を呑み込み夕闇をひろげる

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