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 最終更新日2012/05/18

渡邊 啓介        

1982年鹿児島生まれ。鹿児島修学館高校中退。

以前は、「竹久英良」のペンネームで短歌

を発表していた。

リ オ  (73号)

透明の花瓶を空に放り投げて 落ちて来るまでの短い間にそっと交わす冷たいくちづけ

降りてくる水滴に、涙を浮かべた幾人もの顔が映る――<一体何が悲しいと言うの?>

大好きな時間はもうずっと前に過ぎたはずなのに…… 悲しみを差して止まったままの壊れた秒針

星になったのか、砂になったのか…… 海と空のくちづけを眺める僕に そっとよぎるあたたかい風

目覚めて最初に浴びる水が気持ちよくて…… 心は裸のまま空を見上げる <ほら、あの雲を見てごらん>

何も語らず静かなまま泳いでゆく雲たち――どこへ向かっているの?鳥の声も、僕の歌も聞こえないこの空

<もう一度だけ会いたい……> 見失いそうになる願い 答えておくれ、宇宙へ散っていった魂たちよ

<終わらせるの?早すぎる……> 追いかけた夢は 短命な約束を優しく守り、理想と化してゆく

さっきまでそこに座っていた眉月はもう居ない 僕は告げる 古い自転車を漕ぎながら――君のことずっと忘れない

ただの理想と化してゆく僕の夢 それでも胸を張って歩くんだ――答えは希望だけじゃないはず

夜へ辿り着いたら全てを話してくれるかい? 君が君でなくなる理由なんて、どこにもありはしないよ

深くつけた足跡も昨夜の雨で全て消えてしまった――夢があるなら惜しみなく描こう 僕が僕を生きてゆけるように

幽霊にならないで、雲になってね(72号)

届くのか――過去の僕からの贈り物 白い大地の砂が詰まった瓶

空に放り投げて手をかざす――ここから何も見えない……今も

嘘のような出来事に胸いっぱいのキスをする 思い出を消して欲しい

こんなはずじゃなかった なのに僕は今も……震えながら笑っている

泣きながら空を見上げるもうひとりの僕 強い雨が降るのをじっと待っている

ここまで来たのにまた同じ壁<何をしても後悔だけが募ってゆくんだ>

忘れたいものを忘れるにはどう生きればいいの?――ひび割れる砂時計

もうこの道は二度と通らないだろう――僕の顔が映る鏡の 小さな破片が言う

たとえば僕の居ない場所で今も時間が過ぎているとしたら……あのときと同じ歌を歌える?

なぜだか涙が止まらない いつかの海で見た、美しい朝焼けを思い出す

希望にも似た悲しみの時間を 小さな瓶に詰めて土に埋めよう――どんな花が咲くかなぁ?

<産まれてきたくなかった>もし花がそう言えば 僕は優しく根を切るよ

それでいいだろう それがいい だけど何度も振り返る――どうしてそこに居ないの?

今はもう幻になったぬくもりに 僕は目をとじたまま歌う 戻れない時間が幾つにも重なってゆく

幽霊にならないで雲になってね この大空を自由に泳ぐ雲に――僕は写真をとりにゆこう

鐘(71号)

たとえおまえの耳が削がれても迎えに行くだろう――月夜の港

重い腰を上げ杖をついて探しに歩く <この気持ちに嘘はないんだ、本当だよ>

嘘つきの顔になりすました笑顔に震えてる すごく怖いんだ...怖いんだ

エナメル色素が爆発したような生命の耀きを横目に 黙々と飯を食う僕

<こっちへおいで>なんて手招きにも飽きた そろそろ夢への準備をしよう

見えないものに怯えてる 本当の笑顔に逢いたい――赤く染まりゆく空のほっぺ

夕陽としりとりで遊んでるんだ 次の頭文字は「ぬ」――「ねれぎぬ」か

だんだん辺りも暗くなって受話器を取ったまま黙る 言い出せない「さよなら」

<この山ひとつ越えれば感動を味わうこと間違いナシ!>おひさまは笑って話す

聞こえないフリシして目指した僕 辿り着いて<なにもないじゃないか......でも......>

ただいま帰ってきたよ 涙と汗に砂糖をまぜて薬と一緒に飲み込む......ぷはぁ!

疲れた心に癒しの轟音』僕は軽いステップを踏んでつめたい風と睨めっこ

くるくる回って苦しいよ 同じことの繰り返しだけど今はこの陽射しがあればいい

このまま落ちていくのか それもいいね 大きな鐘を鳴らして<さあ出発だ>

鏡の音(70号)

伝えたい言葉は孤独のピストル、後ろ向きで泳ぐ金魚たち <巻き戻せ!>――過去を洗い浚いに掘り起こす気かい

たったひとつの海をめがけて真夜中の出港が始まる……<なぜ鳥は羽ばたけるの?>――燃える星座を眺めながら

眩しいタンポポを見た あくる日の駐車場で老人は穏やかに尋ねる<二人でこの星座を眺めないか?きっと晴れる>

幸福――<コウフク>という四文字に込められた想いは「鏡」になって――ほら、僕の後ろに伸びていく淡い姿を映しながら

引きちぎられた空に垂れる一筋の光り 画家はゆっくりと尋ねた<きみはなぜ横顔だけで人々を魅せるんだい?>

月の光は応える<私は、私が好きだから 私でありたいから……>鏡の無い世界に生きていく無力さよ

<助けて!>誰にも届くはずのない声は心の中だけにひっそりと鳴り響く――真夜中に響くバイクの音に似ていた

水の踊り子(69号)

退屈な老人、愛について考える でてきた答えは自殺――なんてことだ! これじゃ地球がひっくり返るよ!

カナシミという名前の仮面を被って僕とこれから遊園地へ行こうよ 楽しいお猿のショーを見れるかな?

イルカになりたい老人、夢について考える あれやこれやと考えた末、行きつく答えは真夜中の港

ときどき、忘れた名前を必死で思い出そうとするけど それよりも今は晩のおかずのほうが大事なのです暗闇からスッとでてきた老人、しゃくれた顔で笑い、そして泣く 僕がどこにもいないんだと喚いて

太陽にお願いしてみた<どうか僕を僕に出逢わせてください> 幾年か過ぎて、僕はやっと老人に出逢った

<不思議だね、I Love……>と囁き合いながら 夢は歌うよ この愛で真っ赤に染まった二人だけのラプソディ

エナメル・ジョーイ

ジョーイは天井を見ていた ただぼんやりと見ていた やがて、どこからともなくクラシック音楽が流れてきた

聴いたことあるぞ これは……ドビッシーの……「夢」だ……確かに、「夢」だ……

もう聴こえないと思っていた耳が……聴こえる! 聴こえる! ジョーイは嬉しさのあまり、涙をこぼした

少年と赤い花(68号)

<僕が死んだからといって、誰が僕の代わりになれるだろう そんなもの、居ないよ>

<うるさい、ぬかせ しかし君は、贅沢だ たくさんの愛情に気付いてすらいないで悩むフリをしている>

<悩むフリ?僕が苦しむことは、贅沢だというの?>

<そうさ そもそも、君がここに居ること自体が間違っている さっさと自立してしまえ 働け、戯れ言をぬかすな>

<ごめんなさい、僕はあなたの言うことに素直にうなずけない これから逢いたい人が居るんだ さようなら>

 少年は赤い花を見つめながら呟いた<君は、僕にはなれない> 赤い花は、哀しげだった

夢の記憶は、どんなゴマカシをも、許さない――<僕は灰色になることが、できるのだろうか>

少年が大人だった頃、空はいつでも灰色で、空腹だった――怖かった

<失敗から目を逸らしてはいけないよ 反省することもときには……さ>ド鳩が呟く

<その失敗を未来へ持ち込むことは、危険!>いまの君は「今」を精一杯生きればよい

ハイザラ(67号)

ノン・ストップ止めてくれ 痛みは孤独 戦場の暁

キャンディーをほおばって引く 不吉なあみだくじは濡れている

軽い雲を頭に浮かべながらそれでも追われる夢は絶えない

幻覚か 人々は楽しそうにコーヒーを飲み「死ね」――と囁く

俺の辿って来た道に赤いペンキをぶちまけて笑うんだ「これでいい」

マッチをすって火を点ける 2台のベッドに俺が眺め眺められる――心中

感情のセクスも悪くない 俺はここにいてぶちまけられるベッドの上

あなたの心に入れたら――そっと花をかざしておこう夢じゃない現実の

音の聞こえるこの町で生きるか 俺のこころはただいま使用中です

 ギャア・ミー (66号)

光が眩しくて涙が出たよ そしたら暗闇怒って僕を殴った

明日から葬式の用意だ 俺は死ぬんだ水を用意しろ 俺は生きるんだ

乾いたグチャグチャ燃えながら呟く「馬鹿、クソ、死ね」ってさ 怖いなあ

叫ばんなユー、叫ばんなモア地図を買おうそして飯屋を探そう

パーフェクトなミスにしてやったり顔 皮肉を被り妄想を解き放つ

ああジャパン、ヒヤ・イズ・トーキョー 愉快ああ言霊の祈り拝ぐ

居てはならぬ存在破滅 滅亡ゴ・ドー!からだに動かない涙流れない

ギャア・ミーなぜに行く?旅人だからか なぜ止まる?旅人だからかな

時暴力

浅い地獄にのたうち回る 釣り上げられた魚の如く

後悔パズルを解いてみても治らないウツ空中楼閣

土下座したのは痛み 喰ったのは痛み 踊るのは痛み 僕は痛み

新しいCDを買って聴いても一向に塞げない僕の耳みみ

自ら殴られにいく「生きている」を求め実感を求めひたすらに

おかしなおかしな可笑しいな 居場はどこにあるんだナウ!

                                 

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