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最終更新日2012/05/18

美 紀

197x年四日市市生まれ。京都女子短大国文学科卒。銀行員 。

この人と(61号)

妹があの日から奥様の顔に変わり今は母の顔に変わりかけている

久しぶりに妹の”ただいま”の声を聞いた あの頃よりも澄んだ声ですてき

妹の声がして きびしかった父の横顔が遠い日の想い出の貌となる

10月10日おなかの中でこどもを育てているとやはりおてんば娘もやさしい母の顔に

”まだ出ない”さみしそうに呟く妹 今日か明日か早く跳び出してこい

どんな人生に出会うのかなあ 妹のおなかに向かって問いかける

35歳越えたらマイホームローン 確かこのまえ言っていたような気がする

この人と生きていこうと決めた日の星の静けさ夜の輝き

式場なんて幾度もいったことあるさ でも初めてなの自分のことは

あいさつに来た彼に頭を下げる父の姿 ほっとしながら胸があつくなる

”あら、もう少ししか一緒にいられないね”と笑いながらさりげなく話かける母

「寿退職」という大きな夢がこわれた日 ”仕事もう少し続けるよね”の彼の一言

このところ家がやけに恋しくなる 皆んながやけにやさしく思える――なんて

もう少しいい娘ならよかった もう少し楽にさせられたのに――父母よ

いもうと(59.60合併号)

わたぼうしの下から白い歯をのぞかせて昔と同じ笑顔で嫁つぐ

昨日までと何も変わらない妹なのに名前だけが今日は違う

花束を受けとる父の横顔のひきつった頬すこしやつれた笑み

ホットしたね 何もない顔で呟いた お茶を飲んでさみしさも飲む

お料理を残さず食べる妹なんて今まで見たことがあっただろうか

”花嫁がそんなに食べて――” 一つ一つにまた父のごとくになる

キャンドルの光を運んでやってくる昨日までの妹が友達のように

飲んだことないのよねなんて言いながらお母さんもう3杯目よ

あいさつはその場のアドリブで――なんて じゃあ手に持つ白い紙はなに?

同じ場所にとどまることはないと時間と同じに流れる

追いかける(58号)

一年は2月3日から変るのよと聞いて替わった新しい職場

寒さをこらえて電車を待つ人の名前は違うけどみな同じ顔

私がいなくても仕事は回り 私がいても一日は同じ

今までと違う自分になりたくて演じる私 だまされる人

シナリオのないお芝居はロングラン”ただいま”と共にカーテンが降りる

電車に乗っていて考える このままずうっと乗っていようか――と

一番に手を指し延べて欲しい人はとても忙しいと聞く耳持たず

大切なものは無くしてから気づく 取り戻したくてもいつも消えたあと

気がつけばあっという間に歳をとり気持ちだけは若い頃のまま

まぼろしを追いかけて歩く路は遠く幻と気がついてもなお追いかける

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